いーすく! #01 通信!

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掛け時計の秒針と猫の寝息だけが、部屋の中に響いています。
 
大型連休も明けた5月上旬の日曜日の夜、1年目・1回目の講義週が始まりました。いよいよこの日から、大学生としての日常が始まります。
 

#1 通信!

 
話を先に進める前に、まず何が起きているのかを説明することにします。
 
もう少し自分のこときちんとしたいという想いから、筆者(まさゆめ、当時29歳)は2011年度W大学人間科学部環境科(仮名)通信教育課程:通称「eスクール」にて学ぶことになったのでした。いわゆる社会人学生というやつで、筆者としては初めての大学生活です。選考試験は前年度の秋から冬にかけて行われ、無事合格。入学書類の作成や学費振り込みなどの事務手続きを終えて、この日を迎えたのでした。
 
さて、大学で学ぼうという動機の述懐・・・は後に回すとして、この大学(eスクール)のコンセプトを示します。
 
ズバリ「インターネット全振りな通信制」です。
 
一口に通信制と言うと、赤ペン先生、N高校さん、新聞の一面広告でよく見かけるユーキャンさん、あるいは地味にほとんどのご家庭で視聴可能な放送大学さんなどを思い浮かべる方も多いでしょう。それらのイメージはいずれも正解です。
 
しかし今回入学したeスクールは「インターネット完結型」という部分で違いを見せています。なんだかとある消費者金融のCMで聞いたようなキャッチコピーですが、こちら(eスクール)の方が先に「ネット完結」という表現を使い始めていました。確か。
 
続いてeスクールの受講システムを簡単に説明していきます。
 
講義は特定の時間帯に拘束されないオンデマンド方式で提供されます。要は指定された期間内であればどの時間帯でも閲覧(=受講)することができます。オンデマンドと従来の受講スタイル(以後「通学制」と表現します)を対比させると、通学制の受講チャンスは原則として1講義1回であるのに対し、eスクールは何度でも見直すことができます。
 
まあ単純には、テレビ放映の映画(=通学制)とツタヤで借りた映画(=eスクール)の差です。
 
このシステムを安定して実現するため、eスクールでは学内プラットフォーム「コースナビ」を用意しています。まあ取り立てて斬新な機能はなく、学生ID保持者がログインすると参照可能なコンテンツのリンクが示されるシンプルなものです。各科目にはそれぞれ、毎週の講義映像や参考資料、更には参加者が議論を交わすためのBBS(掲示板)が用意され、受講生は受講期間内にこれらを利用して学びます。
 
さすがに大学の作ったシステム、基本的には無骨なコースナビさんですが、それでもあえて斬新なのかもしれない機能を取り上げると、レポートなどの提出も基本的にはコースナビ経由で行えるように取り図られている点でしょうか。このポリシーによって、紙媒体での文通や提出を行う局面はほとんどありませんし、大学事務局とのやりとりも基本的にはコースナビで行うことができます。
 
まさにインターネット完結。
 
恵まれた受講環境です。ですが、ここからどうやって・・・
 
もちろん大学当局もぬかりはなく、オンラインサポート窓口、入学関連書類一式にパソコン関連書籍の同梱、故障時のパソコン期間限定貸与サービス、といった手厚いフォローを行っています。さすが大学。さすが高等教育機関。
 
冷静に考えるとパソコン操作に引け目を感じる利用者がオンラインサポートまでたどりつけるのか、はたまたパソコン関連書籍を送りつけたところで当人が理解できるのかが謎ですが、様々な対策を講じている事実に大学側の熱意を感じます。かくいう筆者は氷河期世代の最晩年生まれ、インターネットと置き型ゲーム機の進化を具に眺めてきた世代のため、インターネット完結型というシステムに抵抗はありませんでした。
 
いえ、そこではなくて。
 
ここから、何を受講していけばよいのでしょうか。
 
や、もちろん筆者もさすがに無思慮で受験したわけではありません。入学にあたり、学びたい領域の目星をつけ、学習計画も検討しました。しかしその程度の準備で事が済むはずがないのです。そもそも4年制大学は卒業までに124単位が必要(大学設置基準第32条)とされていますが、これはeスクールも同じです。
 
補足しますと、eスクールにはいわゆる編入タイプの「αコース」と、4年制大学と同じ単位数が必要な「βコース」があるのですが、筆者は生涯初の大学生活であるため、選択の余地なくβコースとなりました。1科目で得られる単位は多くが「2」ですから、なんかもうめちゃくちゃ科目を取らないといけないことは確実です。
 
この恵まれた環境を用いて、どうやれば具体的な一歩を踏み出せるのでしょうか。なにしろこちとら大学を知らないし、仮に大学を知っていてもeスクールのやり方、eスクールでの生き方は知りません。何か間違った方向に進んでしまう恐れはないのでしょうか。
 
通学制のキャンパスライフでは、集団や大学文化に上手く溶け込めない新入生は孤立すると聞きます。そういった学生はツテを使えないがためにどの科目も自力で攻略するほかなく、コツコツと勉強を重ね、そのために友人関係が遠のき、バイトと勉強以外にない悲惨な大学生活となる・・・
 
冷静に考えると真っ当な大学生活な気がしますが、こういったエピソードはたいてい「ああなってはいけない」という文脈で語られることが多いものですから、注意するに越したことはありません。
 
しかしeスクールというのは、入学していきなり単騎であることが約束されています。誰も声を掛けてこないし、そもそも筆者という学生の存在を周囲に認識させなければ、そこに人がいるということに誰も気づかないのです。まさにパラレルワールド。まさに全員幽霊。どうしよう。
 
しかし幸いなことに、eスクールには学生同志の交流に用いるためのBBS(交流BBS)が常設されていました。この掲示板は正式な入学前(ただし合格後)の段階でアクセスすることが可能でしたので、結果的にそこで首尾良く情報を手に入れることができました。というか、ヒントを与えてくれるであろうスレッドはすぐに見つかりました。
 
「春学期科目登録会のお知らせ」
 
かような悩みに対し優しいアドバイスをくれるのは、先輩方と決まっています。たぶん。
 

秘密結社「科目登録会」

 
まだ寒さが残る2月下旬、東京の空はいつものように煙っていました。
 
eスクールの在校生が集まって履修科目の検討を行う「科目登録会」が開催される。何も分からない新入生にとっては期待より不安が大きい心持ちのまま、ひとまず参加エントリーを行いました。
 
あれれ~インターネット完結じゃなかったの?というツッコミには、これはまだ大学の公式行事じゃないから!と弁明させてください。というのもこの科目登録会は「通信制の学生によって運営されているサークル」が主催しているものとのことで、よくわかんないけどさっそく大学らしくなってきたのかなこれは?という曖昧模糊な認識で参加したものでした。怪しい壺とか売りつけられれば、それはそれです。
 
会場はよくある居酒屋だったかカラオケボックスだったか、案外普通の飲み会でした。当然ですが、これが筆者にとって初めて、通信の学生と接触した瞬間でした。そこに居たのはまさに多種多様、どういう募集をかけたらここまでバラバラな人たちを集められるんだ、日本の縮図といえば静岡県や兵庫県が有名だけれどしかし静岡で適当に人を捕獲してきてもこうはならんだろ・・・というほど、とにもかくにもバラエティに富んでいるな、というのが集団への印象でした。
 
しかしなにしろ筆者はその時も今も、地味ハロウィンの攻撃対象になりそうなほどの地味挙動者、一般的に言うと世間知らずの人見知りでしたので、その雰囲気に溶け込むまでかなりの苦労を要しました。ただそれでも、このeスクールには生身の学生がちゃんと居る、という事実それだけが、その後に控えるeスクールライフに明るい兆しを与えてくれたのでした。
 
さて、会の進行としては最初こそ和気藹々とした飲み会でしたが、ほどよくお腹が満たされて自己紹介も一巡した頃合いに、突如として検討会モードになりました。
 
えっ、そういうのは普通飲む前に片付けちゃわない?と思いましたが、新入りに余計な詮索は無用です。いつの間にか皆、科目一覧が記された紙を睨みながらメモを取ろうとしています。すごい集中力だ。ていうか酔ってたじゃん。さっきまでの笑顔は嘘だったのか?
 
人見知り的には難解すぎる急展開に、なんとなく圧倒されてしまいました。事態をやっと飲み込んだ頃には、司会ポジションと思しき男性を中心として、科目の検討が本格化していました。
 
司会男性「続いて○○心理学について、情報ある人」
中年女性「(挙手して)はい!」
司会男性「ではどうぞ!」
中年女性「昨年受講しました!レポートが2本あり、楽しい先生です!」
妙齢女性「負荷は!」
中年女性「えっ?」
妙齢女性「負荷はどうなの!」
中年女性「負荷は…高いです…」
妙齢女性「(浮かない顔)」
中年女性「・・・」
司会男性「他に○○心理学について情報のある人、いませんか!」
妙齢男性「もういいんじゃないか、負荷は高いってことで」
司会男性「で、では次の科目行きます。○○論について情報ある人」
 
こんな感じで科目1つ1つ、各自の情報を共有する作業が続けられました。
 
よくよく聞いていると、どうも科目の評価ポイントが面白いかどうかより負荷の高い低いになっている点と、なにやらエグい上下関係が見え隠れするような刹那が気になりましたが、なにせ新入りなので深入りしてはいけません。とりあえず「負荷が低いらしい」科目の名前だけはいくつか覚えることができました。これだけでも、一歩目を踏み出すための参考資料にはできそうです。
 
これが、大学のサークル・・・
 
なにしろ世間知らずの人見知りです。インターネット完結を宛にしていたのにいちいち都内某所でサークル活動に参画するようなパリピな日常は想定していませんでした。それなりに情報を与えてくれた恩義、少なくとも壺を売りつけるような狼藉はなかったこともあって、会を主催したサークルには入会することにしました。4年分の会費を一挙に取られちゃいましたので、4年間は会員のようです。え、でもこれだと途中で辞めたくなっても・・・とちょっと気になりましたが、新入りに余計な(以下略
 
しかしなにしろ人見知りなので、以後はほとんど関与しなくなりました。不本意ながら、ぼっちでやっていくことを覚悟せざるを得ないと、このとき既に決意していたように思います。
 
ただ誤解のないように付け加えると、筆者はサークル内で何かしらの実害を受けたということはありません。単に人見知りであったというだけです。きっとこの広いインターネットの世界、そのサークルに関する話題を華麗にしたためているブログなども探せばいくらかあると思いますし、そちらの方が正しい見方なのかもしれません。
 
なにはともあれ、筆者はリアル方面の充実を早々に断念し、コースナビとは離れたところで培っていたもう一つのネットワークに賭けてみることにしました。
 

Skypeグループチャット

 
2011年は何もかもが端境期だったように思います。特にインターネット経由のコミュニケーションにおいては、ハードはあるのにソフトがないという希有な状態が現出していました。
 
細かく書くと、2010年までのリアルな繋がりを司るSNSの両巨頭はmixiとfacebookだったと記憶しています。一方、現在のオープンなSNSの絶対王者twitterは「ミニブログ」という今思えば相当に不自然な枕詞が与えられるほどコアな存在で、あまりリアルな繋がりがメインではなかったと思います。そもそも筆者のおぼろげな記憶が正しければ、twitterというのは有名無名に関わらず発せられた「つぶやき(ツイート)」が、やはり有名無名関係なく数多のユーザーに共有され、あるいは共感され、ゆるやかに繋がっていく・・・というのが当初の趣旨だったと思います。そのためリアルで繋がるとかリアルのステータスが物を言うとか、そもそも知らない人に声を掛けちゃいけないとか、そういうのから一番かけ離れなきゃいけない媒体だと思うのですが、思った通りにならないのは世の常です。なんせ「呟き」ですから、オフレコ的な意気込みでオフレコ話をツイートした人もかなりいたと思うのですが、もはや誰もそうは受け取りません。話は脱線しましたが、なにより、個々人のやりとりは未だにメール、写メール、キャリアメールが主流でした。簡単に言えばLINEがまだ登場していないので、やりとりするにはメールしかないのです。
 
しかしLINEよりも前から、手軽なメッセージのやりとりやグループチャット的な機能を有していたソフトはありました。その最大手が「Skype」です。詳しいいきさつは忘れてしまいましたが、2011年入学の同期がmixiかなにかで合流し、情報を円滑に交換するためにSkypeを使おう、という流れとなりました。こうやって書いていると2010年前後のインターネットは相当にビジネスチャンスが溢れていたと思いますが、当然ながらそのことに気づくはずもなく、皆淡々とSkypeアカウントを用意し、同期グループチャットが形成されました。
 
科目登録会ではさまざまな老若男女がいました。ただ参加者のほとんどが、科目の話となると真面目に人の話に耳を傾け、その科目は楽なのかそうでないのかといった質問を繰り返していました。やはりその点は学生ということでしょう。ならばきっと同期の皆も、年代も性別も生き様も異なれど、目指す方向は同じなのだからよき友人になれるに違いない。最初は時間が噛み合わなかったグループチャットのメンバーも、ほどなくして同時にオンラインとなる参加者が増えてきました。
 
はじめまして。何を話そうかな。きっとみんな困ってますよね。そうだ、自己紹介とか持ちかけようかな。みんなどんな場所からアクセスしているんだろう。せめて同期とは協調してやっていかないとね。などと一応緊張していたような気がしますが、チャットのハイライトはこんな感じでした。
 
僕 はじめましてー
C こんにちはー
A はじめまして。
B うんこおおおおおおおおおおおおお
A うえええええええええええい
D 盛り上がってますねー
B おええええええええええええ
A マジクソw
C やめなよー
僕 科目登録会、いらっしゃいましたか?
B ああああああああああああああああ
D あっはっはっは
C 行きましたよー
僕 いらっしゃったんですね!
B クソ!本当クソ!
C 黙って!
B うえええええええええええ
A いえええええええええええ
 
記憶に基づいて書いてみたので嘘があるかもしれないけれど、嘘だとすれば優しい方に倒している嘘である。実際こんなもんじゃなかった。無邪気なメッセージにも程があるだろなんなんだAとBは。何しにきた。確かにいろんな人が居るであろうことは想像していたけれど、会話が成り立たないのは聞いていない。
 
まあこんなような流れで、最大で15人は登録していたこのSkypeチャットも、錯乱者AとBの騒擾によって一人また一人と離脱していきました。どんな上質かつ多人数のLINEグループチャットも、ならず者が数人紛れて荒らしただけであっという間に廃れる現象を筆者はこのときから体感していました。リアルに代わる情報交換ステーションにすがっていこう構想も、ここであっさりと潰えたのでした。
 
Aめ。Bめ。ええいもうSkypeチャットの連中め。お前らのハンドルネーム、しかと覚えたからな。
 

入学式中止

 
そして筆者が入学年を明かしてしまった以上、この事実に触れないわけにはいきません。
 
2011年3月11日、東北地方太平洋沖地震が発生しました。その影響によって当期の入学式(eスクール生も式だけはリアルに集まって開催)は全学的に中止となってしまい、前期(4月~7月下旬、8月以降夏休み)も1ヶ月ほど後ろ倒しされることになりました。
 
一応このコラムはどのタイミングで読まれても大丈夫なように配慮したかったのですが、行われていない入学式を行ったことにするのはさすがに無理があるので、その旨書いてみた次第です。
 
結果として筆者はいよいよ、学期開始前にリアルな学生と繋がるチャンスを失い、mixiで繋がることができた人々、特に治安最悪なSkypeグループチャットを荒らしている者共らと共に、荒海に漕ぎ出すこととなったのでした。
 
大学って・・・こんな感じでいいのか?
 
あるのかないのか分からない計画停電に怯え、プロ野球をいつ開幕させるのかなどの議論に悶々とし、想像を絶する被害と余震の報道に日々胸をえぐられながら、第1回目の講義開始日がやってきました。
 
5月上旬の日曜日の夜、つまり月曜日が明けた午前0時。1年目・1回目の講義週が始まりました。いよいよこの日から大学生としての日常が始まります。無骨なコースナビの表示は予想通り、特に新学期を祝うエフェクトがかかるでもなく、もちろんログインボーナスを与えるでもなく、静かに講義コンテンツのリンクがアクティブになったことのみを示していました。自宅のパソコンという見慣れた日常に、ゆく年くる年の新年の瞬間のごとき静けさでその歴史的瞬間は通り過ぎたのでした。
 
これを、あと4年?
 
千里の道も一歩からとは言うものの、124単位先にゴールがあるという都市伝説を信じられるような、石のように固いそんな意思は全く持ち合わせていませんでした。ただ理解されたのは、この瞬間から、死ぬ気で乗り越えるべきは4年後のゴールではなく、1週間後の受講期限である、ということでした。
 
次回、受講のあれこれについて書いていきます。
 
なお章立ては2009年に人気を博した某アニメから拝借しています。できればそのアニメの放送回数くらいは書きたいな、あんまり劇的な展開はないけれどそれは許してね、という決意表明です。でも特に僕の同期で僕に狼藉を働いてきた人たちは、震えて待つがよいですよ。
 
 
 

いーすく! #02 受講!

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空をずっと眺めていると、いろんな形の雲が見つかります。穏やかに晴れた5月の陽気は、心にたったさざなみをもきれいに鎮めてくれるようです。その気持ちを覚えたまま目を閉じて野山を思い浮かべれば、そこには青々とした草原、風、雑木林。あなたは一週間で何科目受講できますか?
 

#2 受講!

 
支離滅裂な導入になってしまいましたが、これには歴とした理由があります。その説明のために、eスクールのカリキュラムについて詳しく説明しなければなりません。ちょっと細かい話になりますが、がんばって噛み砕くのでついてきてください。大学、ないしは単位制の中学校・高等学校に所属したことのある読者さまであれば、斜め読みでも理解できると思います。
 

単位取得ペースと「レベル」のお話

 
「eスクール」といっても正規(ガチ)の大学のため、4年コースの場合は卒業までの単位が「124」必要であることは前回触れました。となると学生は、いかにして124を達成するかに関心を向けることになります。もしここをおざなりとしてしまうと、やれ単位が足りないだの、なんであのときやっておかなかったんだろうだの、今から学校に隕石を落とせないかなだの、夏休み終盤の小学生のごとく慌てるに決まっています。腐っても社会人経験を携えている社会人学生としては、みすみす奈落の底を覗き見るようなスリルを味わう必要はないわけです。
 
しかし考えるにも、何も目安がないのも事実です。誰でも思いつくことですが、とりあえず124という数字を4等分してみました。
 
1年:32   2年:32   3年:30   4年:30
 
ちょっと不均一ですが、だいたい一年で30ちょっとの単位を取得し続ければ「4年で124」に到達できることが分かります。W大は前期(春/夏学期)と後期(秋/冬学期)の4学期・セメスター制で1年を構成しているので、半分のセメスター(半期)で16単位を取得すれば「4年で124」というペースに乗ることがわかります。半期で16単位。何だか、いけそうな数字です。
 
一方、eスクールには通学制の「○年次」と異なる独自の進級ルール「レベル○」があります。単純には、取得単位数や必修科目の単位取得状況に応じてレベルが上がるというものです。これはeスクールに「4年コースを必ずしも4年で修める必要はない」という理念が存在していることを示しています。
 
そもそも日本の大学はW大に限らず、留年をあまり良しとしない、それどころか留年者とはすなわち落伍者、無能、ウサギが寝てても勝てない亀、といわんばかりに蔑むような風潮があります。しかしeスクールの「レベル」は掟を蹴り破れとばかり、年数の概念は二の次、学習の進捗にのみ着目した制度といえます。留年上等、亀で結構なわけです。
 
お断りしておくと、実際は通学制においても進級のための重要項目は在籍年数より取得単位数の方であるはずです。しかしウサギとして生み育てられてきた子供が多数を占める大学という組織で、亀を蔑む文化が育まれるのは致し方ないのでしょう。ただそうであったとしても、eスクールの在籍年数を通学生のそれと同じように考える人は、はっきりいって知らない人です。eスクールに関する他のすべて忘れてもいいので、これだけは覚えておいてください。
 
といいつつ、想定の段階で5年・6年をかけるというのもたしかにちょっと気が引けます。想定自体はタダですから、ここでは引き続き4年で4つのレベルをきれいに上がっていくことを目指してみます。
 
単位取得ペースの話に戻ります。個々のレベルの進級に必要な単位数について調べると、さきほど想定した「124」の4等分に近い数字が当てはめられていることがわかりました。そして安全(=少し落単する可能性)を考慮し、最終的に半期に取得すべき単位数が見えてきます。
 
「18」もしくは「20」です。
 

単位の基準

 
さて、履修すべき数字の正解は見えてきましたが、ここでもうひとつ、各科目で取得できる単位数をおさらいしておきましょう。
 
簡単です。ほとんどの科目が「2」です。
 
というのも「単位」という基準が大学設置基準第21条(単位)において「一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成すること」「講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする」と記載されているので、議論の余地がありません。この基準を1コマ90分のW大で実際に運用すると「半期=15コマの講義=30時間=2単位!」という等式が導かれることから説明がつきます。あれ、90分で15回だと22.5時k…と変な計算を始めた子は知りすぎた子になってしまうので、他のすべて覚えていてもこれだけは忘れてください。
 
・・・どうやらこの不一致は慣例によるもので、歴史的には講義の時間数よりコマ数が重視されてきたようです*1。そもそも45時間という基準の発端も曖昧なので、ここは突っ込まないであげてください。
 
とにかく、半期15コマで2単位です。さらにいうと「1学期(8コマ)で1単位」です。しかしeスクールにおいて1単位科目は少ないので、今はスルーします。
 
というわけで、いよいよ見えてきました。半期で履修すべき科目数は
 
「9」ないしは「10」 です。
 
9 or 10科目。これは果たして、多いのでしょうか。はたまた少ないのでしょうか。無理を承知で通学制と比較するならば、この数は「少ない」と言えます。一方でeスクールでは一年の取得単位数の上限を「41(レベル1・2の場合)」と定めており、1年で42単位以上(21科目以上)取ることを妨げています。つまりeスクールにおいて「9 or 10」は、上限ギリギリのラインであることが分かります。
 
しかしその制度でも「9 or 10」を阻止するほどではありません。
 
ならば、これは登るべき山道である、と考えるしかありませんね。
 

ガイダンスの御託宣

  
さて、eスクールでは入学時のガイダンス映像にて、上にあげたような履修計画の立案を推奨していました。しかし最も肝心な科目数について、筆者の思考プロセスによって導かれた内容とは異なる説明がありました。ガイダンスを担当した磯子先生(仮名)は、このように語っていました。
 
「せいぜい7、いや6科目がいいところだと思いますよ。8とか9とか、もうたいっへんですよ!」
 
え、それでは4年間で間に合わないじゃないですか!
 
と心の中で突っ込みを入れるも、「レベル」なる独自の進級ルールに思いを馳せ、納得しました。磯子先生も、一つのレベルを1年で急いで上がる必要はないと仰っているのです。これはなにも多めに学費をいただこうというゲスい話ではなく、無理は続かないよ、ということを示しているのだと思われます。
 
ちなみに学費について説明しますと、基本的に半期ごとに同じ額を払う「定額制」な通学制と異なり、eスクールでは履修科目数に応じて学費を算出する「従量制」を採用しています。例えば何らかの事情で半期の履修科目数を抑えた場合、その期は学費も下がることになります。
 
しかし124単位の取得には少なくとも124単位ぶんの科目の履修と授業料の納入が必要となるので、結果的に同じコースで卒業する全eスクール生の学費負担はほぼ同等となります。多く払うとしたら、W大側が在学中に学費を劇的に上げるか、学生が劇的に単位を落としまくるしかありません。落単、それは新しい寄付の形。
 
でも、でもですよ。10科目いけば4年で終われるかもしれないわけですよ。磯子先生の親心はありがたいですが、日本男児、大和撫子なら、見えた坂は登ってナンボなわけですよ。落単だなんて・・・そうならないように頑張ればいいだけじゃないですか!
 

いざ履修!

 
というわけで、筆者は1年目最初の半期からフルスロットルで履修登録を行うことを決意しました。ここまで書いてみて、なぜそんな急いだのか自分でもわからなくなりましたが、おそらく「スローペースで走るなんて気持ちが持たない」という予感もあったからでしょう。
 
さてここに、記念すべき最初の学期の履修科目を披露いたします。教員名と現存する科目の名前は仮名としています。
 
入門統計 松井田先生
外国語(英語)II(必修)クラスごと異なる先生
里山論 渋谷先生
憲法論 韮山先生
建築と人間 上野先生
環境とデザイン 藤沢先生
環境と行動 武蔵小杉先生
緩和医療 倉賀野先生
体育I 吉原先生
メディア論 保土ケ谷先生
 
10科目。ここでは筆者がその時すでに興味を抱いていた領域がかなり網羅されていて、我ながらほれぼれするような見事な陣容です。しかしこれは「最初だから、ちょっとでもとっかかりのありそうな科目にしよう」というチキンな動機からでした。もちろん他の学生であれば全く違うチョイスとなるはずです。しかしeスクール(人間科学部)ではきわめて多様な領域の科目が開講されているため、誰もが一度は自分趣味の履修登録ラインアップを作成できると思われます。しかるべき手続きから履修登録を済ませ、学費を納めたのち、開講日を迎えました。
 

同時進行10科目の衝撃 

 
さて、eスクールでは「月曜日午前0時(現在のレギュレーションでは「月曜日午前5時」)」に週が切り替わり、以後1週間の期間であればどの時間帯でも受講可能であることを前回お伝えしました。これをもう少し「時間数」を軸に説明しますと、「7日間=168時間受講可能」ということです。
 
私たちは1週間で168時間を生きている。
 
もっともらしく当たり前のことを書いてみましたが、なかなかのボリューム感です。168時間も暇を与えられたら、きっと持てあましちゃいますよね。
 
問題はこの168時間で、自由に使える時間がいかほどあるかということです。
 
まず1日7時間は寝たいので寝るとします。ご飯やらお風呂やら歯磨きやらトイレやら顔面パックやら脱毛ないしは育毛といった身支度作業で1日2時間は取られるとすると、週で63時間はタスクが決まっている時間です。大雑把に残り100時間とすると、ここにお仕事、専業主婦さんならば主婦業がいつもと同じ重量感で入ってきます。お仕事であれば週40時間ですが、現実的には通勤やら残業やらで60時間は労働に費やすのが今の日本では標準的です(待てや、これ以上だよ!甘ったれんな!という方もいらっしゃると思いますが、問題が変わってきてしまうのでここでは考えないことにします。ごめんなさい)。残りは40時間。
 
40時間?
 
察しの良い方なら最初からこのオチはみえていたと思いますが、10科目はこのたった40時間の中でやりくりすることになります。大学側の想定では、受講に90分、予習復習に少なく見積もって合計2時間以上としていますので、1科目あたり4時間は欲しいところです。いやもうこれ無理では。立錐の余地なし。たいっへんですやん!
 
と気づいたのも後の祭り、受講可能時間カウントダウンは月曜日から同時に始まってしまいました。ポイントカードの有効期限のように「前回受講時から1週間以内」というレギュレーションならまだ太刀打ちできたのかもしれませんが、どの科目も例外なく月曜0時スタートとなります。もちろん。どれかを受講している間にも他の科目のカウントダウンは止まらないのです。たいっへんですやん。
 
ここで磯子先生の金言をさっそく思い返すと、これが6科目ならまだ余裕が見えてきます。1週間の中で1日1科目受講すればよいからです。またしても当たり前すぎることを言うと、1週間は7日なんですよ。たいっへんですやん・・・
 
空は穏やかに晴れていました。一年で一番過ごしやすいはずの時期に、とんでもない奈落が口を開けています。このままではまずい。図らずも大学に大量に寄付してしまう。ということでまずは(自由裁量の)40時間を増やす方向を検討しました。幸いにも筆者は広い意味で自由業に近い専門職のため、実際の受講可能時間は40時間より多めに割くことができました。それでも受講に必要な最低時間数は間違いなく確保しなければいけないということで、余裕があった訳ではありません。
 
しばし思案した結果、ひとつの結論にたどり着きます。時間割です。
 

 バーチャル時間割作戦 

 
あれれ〜通信なのに時間割に縛られるの〜?という厳しい指摘が聞こえてきましたが、当時の筆者に反論する余裕はありません。しょうがないじゃないか、もはやお縄にかかるしか生き残る道はないんだよ!
 
時間割の制作で目指したのは、疑似的に「1週間周期での受講」なる状況を作ることでした。つまり月曜日に受講した科目はずっと月曜日、木曜日なら木曜日に受講し続けるという意味です。当たり前の話ですが、これは例えば月曜日の科目の受講が順延に次ぐ順延で木曜などにズレこむ…という運用をさせないことに意味があります。
 
逆にそうした不規則を許すとそれぞれの科目の受講周期=カウントダウンを止める周期、がガタついてしまい、どこかの週で受講周期が大きく伸びてしまう=受講期限に間に合わない科目、が出かねないのです。
 
とはいっても人間生きていればイレギュラーな予定も入るものです。そこで筆者は時間割へのもう一つの工夫として、プロ野球でお馴染みの「予備日」を設定しました。導入した時間割は次の通りでした。
 
月曜 入門統計 外国語(英語)II 体育I
火曜 憲法論 メディア論
水曜 建築と人間 環境と行動 環境とデザイン
木曜 里山論 緩和医療
金曜 予備日
土曜 予備日
日曜 予備日
 
週の初めは絶対に落とせない必修科目としつつ、残りの科目はなんとなく似たもの同士をくっつけて3日に散らしました。予備日を多めにとったのは万全を期したともいえますが、仕事柄半日ないしは全日使えない日が突発的に生じるため、使えない曜日をまるごと後ろに移すことを想定してのことでした。
 
例えば月曜が全く使えない場合、入門統計や外国語は火曜ではなく金曜に受講する、という流れです。予備日が週の3日というのはいかにも優雅ですが、土日は次の週の予習やBBSでの議論のチェックにも充てなければならないため、実際は一日の猶予もありません。言うなれば受講のチャンスは週にただ一度。
 
うん、もうこれはインターネットを使っているだけの通学です。というか、ツタヤでも7泊8日で10本同時に借りたら、そりゃ視聴チャンスは一度でしょうよ。
 
まさにがんじがらめのスケジュールでしたが、結果としてこの方式は成功を収めました。不慣れな1年目前期において、成績は最上級・・・ばかりではなかったものの、休んだ(=期間内に受講できなかった)講義は一つもなかったと思います。筆者の歴史上でも最も優秀(そう)だったのもこの時期だったと思われます。その内実は地頭の良さやら天賦のセンスなどでは断じてなく、時間割を守るというきわめて地味なものでした。今回は過積載受講の遂行が目的でしたが、案外受験勉強などにおいても達成可能な時間割を作って愚直に守ることは大きな分かれ目なのかもしれません。
 

追い込み型Aさんの場合

 

競馬のレース展開には「逃げ型」「先行型」「差し型」「追い込み型」の4パターンがあるとされています。1週間分の受講を終わらせることをゴールとすると、筆者の予備日多めの時間割作戦は「逃げ型」ないしは「先行型」といえます。しかし前回紹介したSkypeブレイカーAさんは主な自由時間が土日しか取れない制約もあって、追い込み型といえるような侠気溢れるレース展開を選択していました。
 
ここで、前期に7科目を履修したAさんの受講スケジュールを覗いてみましょう。
 
(受講開始)
月曜 仕事ダルい
火曜 仕事ダルい
水曜 仕事ダルい
木曜 仕事ダルいけどそろそろやるか 必修科目ポチッとな
金曜 仕事終わったけど・・・やべえぞこれ 科目2受講
土曜 科目3 科目4受講
日曜 科目5 科目6 科目7受講!! やったぜ!
 
月曜 助かったから今日は受講休み! 仕事ダルいな!
火曜 まだ土日の疲れが残ってるな 仕事ダルい
水曜 いやー仕事ダルい、辞めようかな
木曜 マジで上司ムカつくんだよね 受講?そんなん知るか
金曜 あれ、もう金曜? と、とりあえず必修科目受講しとこ・・・
土曜 科目2 科目3受講
日曜 科目4 科目5 科目6 科目7受講・・・
 
月曜 マジ死んだ・・・
(以下略)
 
ご覧の通り、Aさんは驚くべき末脚をもって最初の週の受講を終えることができました。問題はそのあとです。驚異的な追い上げでアドレナリンを放出したAさんの脳は安堵感と疲労感で満たされてしまい、月曜から水曜までスキマ時間を使う活力を得ることができませんでした。
 
なんであのときやっておかなかったんだろう。しかしもうその時間は戻ってこないのです。そして会社でのソリが合わないのはAさん個人の問題であってどうでもよいのですが、嬉しいはずの金曜日は決戦の金曜日、土日に至っては毎週が8月31日のごとき修羅場となっているのが笑えないところです。これが15週連続でやってきます。
 
繰り返しになりますが、168時間というカウントダウンは何人(なんぴと)にも止めることができないのです。それと言うまでもないことですが、同時受講を試みようとしても閲覧履歴(参照時刻)が残るため、実態は当局に筒抜けになります。そもそもただでさえちゃんと聞かなきゃわからないような内容を同時に聞いても、目が回るだけです。なにより「1週間の猶予」が与えられているeスクール生が受講をちょろまかしたとあっては、心証がいいはずがありません。
 
週の残り時間を、受講しなければならない科目の残り時間が上回ったとき、学生はみなこう思うのです。
 
今から学校に隕石落とせないかな。
 
次回は受講ペースにも慣れてきた頃の本当の壁、試験について書いてみます。
 
 
 
 

いーすく! #03 試験!

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ただでさえあわただしい毎日に追い打ちを掛ける締め切り×10の出現に、猫の肉球をひたすらぷにぷにするくらしか現実逃避の手段がない前期1年目。それでもここで心が折れては社会人の沽券に関わるとばかりにスケジュール管理を徹底し、厳しいカリキュラムを乗り越えるための生活が軌道に乗ってきました。
 
あとはこのスケジュールに乗っかっていけば単位は来る・・・そう思っていた時期が僕にもありました。
 

#3 試験!

 
いえ、そもそも皆勤賞していればなんとかなるという思い込み自体が間違いなのであって、履修時に了承していなければならないことです。当然筆者も何も考えずに履修した訳ではないのですが、予想以上に時間を奪われる役所での申請とかありますよね。えっ、そんな書式知らないよ?別の書類も必要なの?という、そんな感じです。
 
ここで思い出すのが「科目登録会」にて頻出したキーワードです。
 
「負荷はどうなの!」
 
ここでの「負荷」というのは、単にその科目が面白いかそうでないかというより、「受講の大変さ」+「試験の大変さ」の合成変数・・・合わせ技の概念だったのではないでしょうか。そうであるなら、科目登録会の参加者がやたらその度合いに注目するのも当然です。
 
これは後に浮かび上がってきた事実ですが、eスクールの学生は何よりも単位を落とすことを恐れています。これは前回お知らせした「学費従量制」が根源にあると思われます。落とす分だけ損するわけですから、そりゃ必死になりますよね。とりあえず取っとこ!という発想になるのは一部の大富豪か、制度をよく理解していない学生だけでしょう。筆者はそうではないです。・・・後期以降は。
 
閑話休題、それぞれの科目の「負荷」というのは、結局は受講開始の段階では必ずしも分からないということがご理解いただけたかと思います。講義は楽しくても試験が大変ということがあり得るからです。冒頭の思いを更に正確に記すと、最終的な難易度は知らんけどとりあえずそのスタートライン(皆勤賞)には立っておこう、という思いでした。遥か遠くのゴールでも余裕で見えたつもりになったかと思えば、目先ではっきり感じ取れる危険性からも堂々と目を背けたり、学生って本当に面倒ですね。
 

成績のつけ方

 
さて、またコラムの前半はeスクールのカリキュラム説明になることをご容赦ください。でもこうやって少しずつ導入されると、案外読めるんじゃないかなと思って書いています。ピーマンを丸ごと食べてくれる子供は少ないですが、細切れにしてチャーハンに混ぜると案外食べてくれます。それでも食べてくれないケースは、チャーハンがマズいだけです。もちろん、この記事が読者さまの味覚に敵う出来かどうかは全く保証できません。
 
eスクールとは、そのまろやかな響きとは裏腹にガチの大学のため、最終的な単位付与の判断は成績に基づきます。ほとんどの科目の成績は5段階評価で与えられ、高い方から順に「A+,A,B,C,F」となります。要は通知表でいうところの5,4,3,2,1です。あえて日本語で言うと「特優、優、良、可、不可」でしょうか。
 
このうち単位がもらえるのは「A+~C」までで、「F」の場合は単位がもらえません。いわゆる落単です。ただしもらえる単位数は優でも可でも同じ(2単位科目なら「2」、1単位科目なら「1」)なので、オールA+でもオールCでも124単位積み上げられれば卒業できます。
 
いや、そういうんじゃなくて、良い成績を取るためには何をしたらよいのか。それを知りたい方がほとんどだと思います。これはシラバスと呼ばれる科目の要項に掲載されています。
 
ここで、とある科目のシラバスに記載されていた「成績評価方法」を引用します。
 
レポート:80% 出題されたレポートの評価
平常点:20%  視聴やBBS討論
え?これだけ?と思われるかもしれませんが、これだけでも結構な公式情報です。読み解くと以下のようになります。
 
・この科目には「レポート」があるよ。100点満点中80点の重みだよ。講義の途中で出題するよ。
・100点満点中20点分は「平常点」を成績に入れるよ。平常点は視聴(=受講)やBBSに書き込んだ数で採点するよ。
 
つまりこの科目は「レポート」がとても大きな比重を占めることが分かります。問題はこの「レポート」がどれほど大変なものであるかなのですが、それは受講を経て解き明かされる可能性が高いと考えられます。科目によっては「レポート」の成績評価の比重が低く平常点の比重が高いこともありますし、平常点の採点も受講態度(出席)よりBBSへの書き込み回数を重視することもあります。
 
とにもかくにもここで大事なのは、見当違いな方向に頑張ることを防ぐということです。例えばこの科目で「皆勤賞だけ目指していればいいや」と誤解してレポートをガン無視すると、単位は確実にきません。一方でレポートに懇切丁寧に取り組んでいれば、BBSの議論に乗り切れずに終わっても成績としては悪くないものになる可能性が高くなると思われます。
 
他にもシラバスには授業概要や到達目標、授業計画や参考文献が記載されており、担当の先生はこの内容に沿って講義を行うことが求められています。ごくまれに先生の事情の変化やよからぬ思いつきによって内容が変わることもありますが、あまりにも予告と内容が異なるような理不尽な事例に、少なくとも筆者は遭遇しませんでした。
 

試験(=成績評定)の行い方

 
さてさて、成績のつけ方が明示されていることは分かりましたが、実際の試験ではどうなのよ?という話が残っています。さきの科目で、もう一つ読み取れることがあります。
 
・試験(テスト)はやらないよ。
 
この科目ではレポートと平常点だけで成績評価要素の100%を満たしているので、試験(=制限時間内に設問に回答するタイプの「テスト」)は行われないことが読み取れるのです。ここまで説明して、大学の科目における評価方法の多彩さに気づかれる方もいるかと思いますので、ちょっとおさらいしてみましょう。
 
1:レポート提出方式
講義内容に基づく出題に即したレポートの提出を求められます。回数の規定はありませんが、開講期間中の中間と期末の1回ずつ、または期末の1回のみというパターンが大勢です。分量は様々な方式があるため一概には言えませんが、何の指定もないこと、「A4・2枚以内」と具体的な設定があるもの、「.doc形式以外は認めない」などとファイル形式にやたらこだわってくるもの、「5000字以上」という結構な分量を求めるものまでバラエティに富んでいます。良いレポートとして評価されるには、提示された書式や提出期限を守ったうえで、記述内容が出題への適切な回答になっていることが不可欠です。美味しいカレーの作り方を書いた場合、そういうタイプの題意でなければ十中八九「良い」とは認められません。
 
2:小テスト積み上げ方式
講義内容の理解度を確認するための方式として「小テスト」があります。毎週それほど多くない分量の設問が出題され、それに解答する方式です。たいていの場合は受講期間と小テスト受験期間は連動しているため、受講ホヤホヤの状況で受験する以外になく、結果的に精神的な負担は少なくて済みます。真面目に受講している学生にとっては真面目さが結果に反映されやすいので、とてもありがたい方式です。一方でナマケモノが心を入れ替えても挽回することが難しい方式でもあるので、好みは分かれるかもしれません。
 
3:受講態度見るよ方式(平常点)
通学制でいうところの「出席」にあたるこの方式は、受講期間内に受講を済ませているかどうかがチェックされます。またBBSへの書き込みが求められる科目では、BBSへの参加度合い、具体的には自らの意見を書き込んだ回数やその内容を評価されます。いわゆる「平常点」です。多くの科目において成績評価の比重は高くないものの、あまりに受講態度が悪い(出席率が悪い、BBSに全く参加しないなど)場合、他要素の点数に関わらず一発レッドカード(落単)と明記している科目も少なくありません。
 
4:一発勝負テスト方式
eスクール自慢のシステム(コースナビ)には参照回数や回答可能時間を制限する機能があり、一発勝負の試験に用いられます。例えば制限時間60分の試験なら、「受験開始」のボタンを押した瞬間からカウントダウンが始まり、制限時間前に解答を送信しなければいけないというものです。この方式の恐ろしいところは、解答途中に「送信」を押してしまうとそれで提出扱いとなってしまうこと、ブラウザの「戻る」「更新」に触れてしまうと二度と戻れなくなることなどがあります。うっかり猫がキーボードを押したとあってもダメなものはダメです。あらゆる事故を覚悟しながらの受験となりますので、かなりのスリルを味わえます。
 
以上です。
 
この中でおそらく「試験」という言葉のイメージにマッチしているのは、4:一発勝負テスト方式 だけかと思います。この中のどれが一番楽かと言われればおそらく「2:小テスト積み上げ方式」でしょう。しかしこれも毎週の受講に気を抜けないため、人によってはキツいと思うかもしれません。
 
またどの方式が採用されているにしても、科目担当者(先生)の性格は見事なまでに反映されます。受講していれば簡単に答えられるレポートを出題してくれる神の化身のような先生もいれば、設問内に運転免許センター顔負けの罠を仕掛けてくる悪魔の化身、へそ曲がりのマリーな先生もいらっしゃいます。特にへそ曲がりタイプはどの方式でもそれなりに手間の掛かる工夫を講じてくるので、観念するしかありません。
 

地獄の必修科目「統計学」シリーズ

 
また更なる新規情報で申し訳ないですが、eスクールの科目には大別して「必修科目」と「選択科目」があります。字面の通り、ず履しなければならない科目と、履修するかを選択できる科目です。この大学(学部)は他学部と比較して必修科目は少ない方とされているようですが、それでも数少ない必修科目の一つである統計学については異様に注力しており、それは科目数からも伝わってきます。
 
・入門統計学(選択科目)
・統計学Ⅰ(必修科目。レベル2への進級にはこの科目の単位が必要)
・統計学Ⅱ(必修科目。統計学Ⅰの単位取得後に履修可能。レベル3への進級にはこの科目の単位が必要)
・統計学Ⅲ(選択科目。統計学Ⅱの単位取得後に履修可能)
 
都合4科目。このうち必修は「Ⅰ」と「Ⅱ」のみの2科目ですが、お前は2科目だけでいいのか?足りるのか?いいんだな?という圧力を物言わずにかけてくるようです。また、必修・専門を問わずほとんどの科目は「前期」「後期」どちらかの開講であるのですが、必修科目の「統計学Ⅰ」「統計学Ⅱ」については前期・後期とも開講されていました。
 
これはつまり「前期に入門統計学→後期に統計学Ⅰ」という初心者パターンも可なら「前期に統計学Ⅰ→後期に統計学Ⅱ」という心得者パターンも選べるという、言い訳は聞かない、もとい親心満点の態勢であるということです。筆者は数式を扱う科目の受講が十数年ぶりということもあり、1年目春学期は「入門統計学」を選択することとしました。
 
さて、「入門統計学」を含めた統計学シリーズのシラバスには、このような方針が示されていました。
 
・試験:30%(中間に1回)
・レポート:50%(期末に1回)
・平常点:20%(欠席1回で20%減点)
・出席認定には毎回のレビューシート(形を変えた小テスト)提出が必要
 
(評価手段の)全部じゃないか・・・
 
シラバスには更に気合いの入った授業計画、評価基準に関する説明もありました。統計にビビる者は絶対に駆逐してやる!という気迫に満ちた文面の最後には「内容の出来具合は言うまでもなく、レポートは体裁まで含めて厳しく評価する」というとどめの一言。このシラバスに目を通してビビらなかった学生はいないでしょう。これはもうへそ曲がりとか天邪鬼という次元ではなく、鬼の平蔵です。
 
入門統計学では主に次のような事柄について勉強しました。
 
・偏差値
・相関係数
・を知るための数学の基礎知識
・を知るための心得
 
結果として1年目前期に履修したこの科目のレポートは、その後に受講した統計関係の問題で一番大変な内容だった気がします。30ページくらい手で書いたかな。相関係数っていっぱいあるんですよ。そもそも平均もいっぱいあるし、分散って普通の分散より不偏分散の方が当てはまりが良いケースがありまして、なぜそうなのかの理由を説明していくにはこのコラムの余白は狭すぎるんですよ。
 
つくづく、「入門」という言葉の意味を筆者は間違えて理解していたのかもしれません。いや、門はたしかにくぐりますが、そこまでの道程がもうハンター試験の一次試験なのでした。数学が不安でも、心配は要りません。なぜなら、ここで全部学ぶので。不安があるならそれがなくなるまで頑張らないと先に進めないので。とにかく半泣きになりながら全力でレポートを書いた記憶しかありません。その思いが通じたのか、幸いにも良い成績(単位)をいただくことができました。
 
そしてこのときに育んだ受講姿勢が、間違いなくこの後の大学生活の基準となりました。ズバリ、学問に王道(=近道)はない。もちろん多くの科目で「近道」はできますし、それが習得効率を上げることもあるでしょう。でもそれは「常道」があるから比較できるのであって、本当の意味で近道のありがたみを体感できるのは両方を通った人だけなのです。なにより、受講を終えた時、手元に残される地図が近道を記しただけのものだとしたら、それがなんの役に立つのでしょう?
 
というような気合いを入れて、たまにちょっとだけがんばれるようになったのでした。
 
結局筆者は入門統計学の単位取得に気をよくして、統計学Ⅰ、統計学Ⅱ、勢い勇んで選択科目の統計学Ⅲと履修していき、その都度修羅場に遭遇しながら単位を取得していきました。特に統計学Ⅲは、現役時代ですら数Ⅲを回避した程度のスペックの筆者にとって苦行そのものでした。きみは三元配置分散分析を手計算したことはあるか。
 
そうはいっても、いずれも履修してよかったなと思っています。不満があるとすれば(当然ながら)単位が各科目「2」ずつしかもらえなかったことくらいでしょうか。労力的は10単位くらいかかった気がするんだけどな。
 
もちろんその時の資料やノートは今でも手元にあります。よく考えると、半年も掛けて学んだ成果を手元に置いておくのはむしろ自然なわけですが、その正しい状況を机周りにもたらす機会を与えてくれた松井田先生には今でも感謝しています。
 
ちなみに現在のeスクールでは、カリキュラム改編によって「統計学」の名前が科目名から消えています。しかし統計学を重視するという方針は何も変わっていないようで、学生にとって統計学は相変わらず大きな壁であり続けています。人間科学部の学生たるもの、偏差値に一喜一憂せず、偏差値を計算できる人間にならなくてはいけないのである!
 

(おまけ)入学試験はどうだった?

 
最後に、試験ごとの話で対外的には最も気にかかる(需要の高い)情報と思われる「入学試験」について、書いてみましょう。
 
…といきたいところですが、残念ながら筆者もこの点は体験談すら易々と書くことはできません。そもそも詳しいことは知りませんし、体験談を書こうにもそれが現時点で有効な情報かも推し量ることはできません。結果論でも今は違うかもしれない内容をのうのうと書いてしまえるほど、入学試験は軽いものではありません。
 
そうはいっても、淡い期待を寄せてここまで読まれたかもしれないごく少数の志願者のために、なぜ書けないかを公開情報をもとに言い訳してみます。
 
2020年度現在、eスクール入学試験は「書類審査」と「面接」で構成されています。通常の入学試験では英語やら小論文やら最低でも学科1科目は課せられるものですが、eスクールではそれを行なっていません。つまり書類審査と面接の成績が良ければ合格することになっています。
 
しかし言い換えればこれは、判断材料が書類と面接しかないことを意味します。それこそ1科目でも客観的指標となる「得点」が与えられる科目があるなら、その事前対策(受験勉強)も可能となるわけですが、それがないということは…?
 
非常にうがった見方をすると、とりあえず適当に判定しちゃえ、と当局が仕事を安易に行っている可能性も否定できないわけです。しかし過去数年の各学科の募集人数と合格者数を眺めてみると、毎年のように定員に満たない数しか合格者を出していないことが分かります。
 
ここから読み取れるのは、当局は何らかの厳然とした基準をもって判定しているということです。適当なら、定員分の人数を機械的に合格させればいいわけですから。こうした事実から、少なくとも「適当にやっている」という可能性はきわめて低いと考えざるを得ません。
 
ではその「判定基準」が何かなわけですが、当然ながらそれを示したシラバスはなく、外部には全く分かりません。分かるわけがないし、仮に分かってしまって周知してもそれが次の年に有効かは更に分かりません。なんせ「書類審査」と「面接」ですから、基準はいくらでも変えられてしまいます。
 
それでも何かの情報を得たくて、もし今このコラムを読まれている方の中でeスクールへの受験を検討されている方がいらっしゃいましたら、これだけ言わせてください。
 
とにかくチャレンジしてください。扉は派手に開いています。
 
当たり前過ぎる!ふざけんな!と思われるかもしれません。が、悩むなら、怒るなら、まずはチャレンジしてからにしてほしいのです。その結果、合格すれば万歳ですし、そうならなければ確実にそこに理由があるはずで、それを考えるだけでも前に進むことができます。
 
なお過去の志願者数データを見ると、3学科合計で300人に届いていません。いちおうW大は国内では名門とされる大学のようなので、もう少し人気があってもよさそうなものです。しかしこの学部があまり社会に認知されていないのか、知らない人にあることないこと吹聴されているのか、年間でこれしかチャレンジする人がいないのが現実です。もったいないんじゃないかと思います。言い換えればこれはチャンスです。パッと受かってパパッと仲間になりましょう。
 
締め切り×10の日々がお待ちしています。
 
次回はいよいよスクーリングについて書いてみます。
 
あれ~通信だからスクーリングなんてないんじゃないの~? というツッコミは、読んでからお願いします。
 
 
 
 

いーすく! #04 スクーリング!

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夏といえば海!海と言えば夏!と相場が決まっている海沿いで育った人間ですが、2011年の夏はソフトボールでした。
 

#4 スクーリング!

 
ネット完結という響きはどこへやら、eスクールにもスクーリング(キャンパスへの登校)があります。厳密にはスクーリングを必須とする科目はすべて選択科目のため回避が可能で、「ネット完結(も可能)」という意味ではキャッチフレーズに傷が付いた訳ではありません。たぶん。
 
今回のスクーリングは「体育Ⅰ」の最終週受講のためのもので、ぶっちゃけ実技です。
 

体育Ⅰ(2011年)授業計画

 
さてここで体育Ⅰ(仮名)の授業計画を簡単にご紹介しておきましょう。これらは基本的に映像での受講です。
 
・ソフトボールの歴史
・ウインドミル投法
・動く速球の投げ方
・変化球の投げ方
・打者に打たれない投げ方
 
序盤から吉原先生(仮名)のご専門であるソフトボールから1ミリも動かない内容に圧倒されます。初回「ソフトボールの歴史」はよいとして、速球の投げ方、変化球の投げ方についてはなかなか習得が難しそうです。なお変化球は70種類ほどあるようです。70種類の投球のためには少なくとも70球を投じなければなりませんから、これは相当な投げ込みが必要です。
 
ちなみに筆者は高校時代、体育の授業で投手を任されて20安打ほど打ちこまれたことがあります。原因は子供の頃に使っていた小さいボールで練習していたため、実戦で使用したボールが全く手に馴染まなかったことと、運動センスのなさです。なにしろ右肩が亜脱臼するクセがあり、思い切り腕を振ると軽く捻挫したようになるので色々とよくありません。しかしその時この講義に出会っていれば、もうちょっと抑えられたかもしれません。
 
講義は中盤に入り、攻守が交代しました。
 
・バッティングの基本
・バント
・投げ方、捕り方
・バッティング上達の方法
・コンディショニング
 
ソフトボールにおいて習得すべきものは投げることだけではありません。打つこと、守ること、試合に臨むために体調を万全に整えること、すべてであります。
 
ちなみに筆者は中学時代、授業内での誤答や成績不十分によるケツバットありの数学の授業を受けていました。クラスの誰もが数学の先生のフルスイングによる痣を尻に作り、バットというのはこういう使い方もなされると学びました。それが今回、思わぬ形で正しいバットの振り方を学ぶことができ、目から鱗が落ちる気分でした。少なくとも、尻はバットに打たれる部位ではなかったのです。
 
講義は終盤に入り、ネタが尽きた、のではなく、10週間に及ぶ自主練習によって生じるであろう疑問に先回りする形でのレクチャーが行われました。
 
・Q&A(1回目)
・Q&A(2回目)
・実技試験
 
そして最終コマにおいて、これらすべてをきちんと習得しているかを確かめるための実技試験が開催されます。当然ながら、このスクーリングへ出席しなければ単位は来ないと考えるのが自然です。場所はeスクール事務局があるW大所沢キャンパスです。あ、所沢って書いちゃった。
 

いざ所沢へ

 
埼玉県所沢市。タレント:所ジョージ氏の「所」の由来となった地名と言われ、プロ野球チーム:埼玉西武ライオンズの本拠地「西武ドーム」があることでも有名です。今回は「W大所沢キャンパス」までの距離感を公平な視点でお伝えすべく、都心をスタート地点と仮定し、新幹線にて到着した東京駅からW大所沢キャンパスまでの簡単な道程について紹介したいと思います。
 
1.東京駅から丸ノ内線で池袋へ
新幹線を降りて在来線への乗り換え改札を通過すると、利用客でごった返す丸の内口と八重洲口を結ぶ大きな通路が目に入ります。東京メトロ丸ノ内線は丸の内口の地下に位置するため、まずは丸の内口方面へと歩きます。八重洲口の改札を出てしまうと色々と面倒なので気をつけてください。ここで赤レンガで有名な丸の内駅舎を見るために外に出ても良いですが、全体をカメラに収めたくなって遠ざかり過ぎると場合によっては二重橋前駅(千代田線)に行ってしまうので気をつけてください。丸ノ内線では池袋行きに乗車し、わずか16分で池袋に到着します。
 
2.池袋駅から西武池袋線で小手指へ
小手指(こてさし)という見慣れない駅名が出てきましたが、まずは丸ノ内線から西武池袋線へ乗り換えてください。ここで気をつけて欲しいのは、乗り換えるべきは東口にある西武池袋線であって、西口にある東武東上線ではないということです。ここを間違えると小手指には永久にたどり着くことができなくなりますので気をつけてください。それと調子に乗って丸ノ内線以外の地下鉄を使おうとか、余計なことを考えてはいけません。確かに副都心線と有楽町線のどちらも西武池袋線に乗り入れていますが、実は線内止まりの電車や東武東上線への乗り入れ電車の方が多いのです。気をつけてください。どうにかして西武池袋線ホームへたどり着いたら、今度は急行もしくは快速「飯能行き」または「小手指行き」に乗ってください。5番線あるいは3番線、もしかしたら7番線や2番線から発着しますので気をつけてください。各駅停車では相当時間がかかりますし、そもそも小手指までたどり着かないものが多いです。あと「西武球場前行き」や「豊島園行き」は、行き先こそ楽しげですが案の定小手指にたどり着かないので気をつけてください。それと特急は少しだけ速いですが、途中停車駅の所沢で乗り換える必要があり、しかも所沢の次は小手指を過ぎた入間市まで止まりませんので気をつけてください。池袋から小手指まで、急行でわずか30分程度です。なお準急に乗ると練馬駅で急行より速い「快速急行」に乗り継げる場合がありますが、よく遅れるので気をつけてください。最悪の場合、練馬駅で快速急行を待つ→来ない→なぜか乗ってきた準急が先に発車→練馬駅置き去り、という謎の遭難現象に見舞われることもあります。とにかく気をつけてください。
 
3.小手指駅から学バスで所沢キャンパスへ
めでたく小手指駅に到着したら、小手指駅北口または南口から発車する大学直通バスに乗ってください。ただしバスは時間帯によって北口もしくは南口のどちらかからしか発着しないので、気をつけてください。大学関係者以外は乗車禁止ですが、大学に用のある人間は乗って大丈夫のようです。というより道中ノンストップなので、他の場所に用のある人が乗っても大変な目に遭うだけです。バスの塗装は分かりやすいエンジ色と、いかにも西武バスの色をした2種類が混在していますが、行先表示が「W大学専用」などとなっていればそれが直通バスです。運賃はありがたいことに無料です。一方同じルートには市営バスがあり、南口から「小手02系統 早稲田大学行き」が出ています。これは終点がW大所沢キャンパスとなっていますので分かりやすいですが、お金が必要となるので気をつけてください。バスも面倒ということであれば、タクシーで乗り付けるのもアリです。お金はかかります。いずれのルートでもわずか20~30分程度です。
 
しめておよそ1時間強。いや~簡単ですね。
 

W大所沢キャンパス

 
小旅行の果てにたどり着くことができる「W大所沢キャンパス」は、豊かな自然と2つの大きな運動施設(陸上競技場と野球場)が目を惹くキャンパスです。今回の体育Ⅰのスクーリングは、この野球場で行われるようです。
 
バスを降りると、多くの人は両運動施設の間に架かる歩道橋に吸い込まれていきます。歩道橋と書きましたが、バス降車口からの勾配差がないため、実感としてはただの歩道です。歩道の両脇を背の高い常緑樹が取り囲み、木のトンネルを作り出しています。
 
トンネルを抜けるとそこは雪のように白い壁のある建物が視界に入り、おそらくこれがメインの建物なのだろうという程度のことは初訪者にも分かるようになっています。こういった場所はくまなく探索してみるのが筆者の性分ですが、あまり変な場所に行くと(広くて)戻れなくなるかもしれないという危機感が少しだけ芽生えたため、ひとまずスクーリング受講者の集合場所である教室へと向かいました。
 

スクーリング、始まる

 
今回のスクーリングは土日の2日間にわたって開講される大がかりなものでした。そのため筆者も、同じ関東地方在住ながら泊まりがけで臨むことになりました。なにしろ聞きしに勝る遠さでしたので、泊まりがけという判断は正解でした。
 
さて、スクーリングにおいて恐れていたことがありました。それは夏の暑さです。元々筆者はバリバリの夏生まれなのですが、日中40度に迫る暑さに見舞われた2002年夏ナゴヤドームでのライブ鑑賞において開演直前に熱中症を発症して以来、極端な暑さを恐れる身体になってしまいました。加えて今年からの座学の日々とあって、運動不足が服を着て歩いているような虚弱体質人間となっていました。少なくとも足腰は相当弱っていたと思われます。そこへ折からの真夏の厳しい陽射しに露天で曝され続けたとあれば、救急車召喚は確実です。
 
しかし先述のようにこのスクーリングを受講しなければ単位はもらえません。せっかく10回以上の受講を重ねて(頭だけでも)ソフトボールのウインドミル投法やバッティングを習得したというのに、です。世知辛いどころの話ではありません。ここはひとつ、グラウンドにかじりついてでも受講を全うしなければなりません。帽子。熱中症予防グッズ。最近あんまり履いていなかったシューズ。軟式野球用グローブ。最悪の事態を避けるための最大限の準備は行いました。
 
いざ、勝負です!
 

スクーリング1日目(薄曇り)

 
心配した天候は小雨に近い薄曇りでした。そのためか屋外での実技は予想していたものより相当に軽いメニューで終わりました。代わりに、集合場所であった教室にて吉原先生による生レクチャーが行われ、1日目が終了となりました。よく考えると、これが大学のライブの講義の初体験でした。
 
とにもかくにも、これほどまでに悪天候を(内心)喜んだのはいつの運動会以来でしょうか。ちなみに1日目のスクーリングは午後からでしたが、2日目は朝からとなっていましたので、主に午後にかかりやすい熱中症のリスクはこれで大きく下がったといえるでしょう。神はいたのです!
 
さて今回の体育Ⅰは、数少ない旧知の同期(B氏、C氏、D氏)や科目登録会にて知り合った多くの学友も履修していました。これは通学制でもそうですが、eスクールにおいても他者が何を履修したかは当人に訊ねるか、履修後に同じ科目内の同じクラスで邂逅する以外にありません。そのため個人的予想より遥かに多くの学友に会えた、という実感がありました。
 
身の危険から解放され、頼りない絆を再確認できるとあっては、さすがの筆者もテンションが上がるというものです。1日目の終わりということで、かなり多くの履修者が所沢市内まで一団で移動しました。雨は夜になっても延々と降り続いていましたが、悪名高き埼玉の暑さを遮る救世主であることを考えると邪険にはできません。首尾良く鬨の声を上げられる店が見つかり、大団円のお疲れさま会となりました。
 

1日目の夜:お疲れさま会@プロペ通り

 
会場となった所沢駅近くの居酒屋は「プロペ通り」という謎の名前がついた繁華街の中にありました。お疲れさま会はeスクール入学以来最大の盛り上がり(当社比)だったと思います。お酒はこの頃からあまり飲んでいませんでした。や、少し飲んだかもしれませんが、酔っぱらうほどではなかったはずです。十分に親交を深め、会がお開きになった後、筆者含め同じホテルを取っていた一団はプロペ通りから少し離れた場所にあるこの日の宿泊地、駅前唯一のビジネスホテル「所沢Pホテル」に向かいました。間違いなく、チェックインしたところまでは筆者は元気でした。
 

2日目の朝:暗転

 
いつから気持ち悪くなっていたのかはわかりません。寝付きが悪いな、と気楽に構えていたのは束の間、気がついた時には猛烈な頭痛と吐き気を自覚していました。子供の頃から「どう?乗り物酔いしてない?気持ち悪くなってない?」と確かめられると気持ち悪くなるタイプでしたが、このときはさすがに、おかしくなっていたのはこちらだとすぐ分かるほどでした。
 
なにしろ理由が理解できませんでした。熱中症にはなっていないはずなのに。ほとんど飲んでいないはずなのに。結局「朝」と言える時間まで一切眠りに落ちることはなく、最悪な気分と体調で2日目を迎えることになりました。お詫びして訂正します。神はいませんでした。少なくとも所沢には。
 
なおホテルの名誉のために付記しておきますと、Pホテルでは何も飲食をしていない(※朝食は摂取不能のためスルー)ので、Pホテルで何かにあたったということはあり得ません。となると疑惑はその前の居酒屋となりますが、少なくとも同宿の学友はみな元気よくホテルの朝御飯を食べていましたので、深刻な被害が広がっているということもなさそうです。なにより、不調になる理由が筆者にはあり過ぎました。運動不足です。この数ヶ月、ろくに遠出も運動もしていなかった人間がいきなり所沢まで赴いてソフトボールをプレーしたとあっては、何かがおかしくなるのも必然です。想定していた最悪の事態は最悪でもなかったことを思い知った朝でした。
 

スクーリング2日目(小雨)

 
よく学バスの中で吐かなかったなと思うほどの強烈な不調の中、単位だけを目指して筆者はキャンパスを再訪しました。出席しなければ単位が来ない、と考えての無茶でした。2日目のメニューは1日目のレクチャーを踏まえた試合でした。
 
かくいう筆者はこの記事から遡ること8年ほど前に「大阪ドーム(当時)で草野球をやりたい人集まれ」というネット上の企画に乗り、使用料金が最も安い午前2時から草野球を始めるという狂気のイベントに参加したことがありますが、その数千倍はしんどかったと思います。むしろ今回もいっそ午前2時からスクーリング2日目をやってくれていれば、元気な状態で受講できたかもしれません。
 
ただ幸いにも天候は、昨日以上にまとわりつく霧雨が周囲を覆う絶好の雨模様でした。一度は見捨てたはずの神が「やりすぎたかな?」と気を取り直したのでしょう。濡れそぼった芝生の上を、昨日より暑くないはずなのにフラフラと彷徨う筆者。ご存知の方も多いと思いますが、行き過ぎた湿気は何一つ身体を楽にしてくれません。
 
あまりの緩慢な動きに業を煮やしたのか、外野で守っていた荒らしの大王B氏は「ちゃんとやれよー」といった檄を小声で囁いてきました。しかし「それ以上言うと吐くぞ!」という禍々しい殺気に少し気づいてくれたのか、以後は何も言わなくなりました。その調子で、荒らすのも止めてくれないかな。
 
ちなみにこのスクーリング、実際には離脱者対策として休憩用テントも用意されていました。例えばこのスクーリングに参加していたC氏は試合中にどこかを痛めたらしく、以来ずっとテントで見学していました。いやもう、明らかに僕もそこに行くべき人じゃないかな? と最初から思っていました。
 
しかしそんな機転が利くのは、頭がきちんと回っている場合のみなのですね。あそこ(テント)に入ったら単位は来ない! だってコンディショニングできてないことになっちゃうから! Cさん、残念だったな! という純朴な強迫観念と体調不良の板挟みが、最後までグラウンドで筆者を頑張らせたのでした。
 
ちなみにC氏に単位は来たそうです。冷静に考えると、2日間のスクーリングメニューを個人練習と試合のみ成り立たせてくれた吉原先生は、見た目も心も優しい方です。そんな慈悲深い先生が「体調悪い」と申告してきた学生に対し「コンディショニング失格だ!落第!ケツバット!」なんて言うでしょうか。神は居て、しかし筆者が愚かで、神に語りかけていなかっただけなのです・・・
 
試合は気がついたら終了していました。どちらが勝ったとか負けたとか、全く覚えていません。そもそも勝ち負けは最初から関係がなかったようです。最後に教室に戻り、先生と「体育Ⅰ」を担当した教育コーチと共に記念撮影を行い、スクーリングはめでたく終了となりました。記念写真として残された、筆者の引きつった笑顔とよろける寸前のように斜めになった身体が、身の内の激闘を今に伝えています。
 

アディオス、W大所沢キャンパス

 
所沢キャンパス。事前に相当な対策を講じ、覚悟を決めていたにも関わらず、その実力は本物でした。まず遠い。第一に東京から遠いし、第二に小手指からも遠い。おまけに時間差で気持ち悪くなるし、踏んだり蹴ったりとはまさにこのことです。
 
けれど長旅を終えてバスから降りた時に出迎えてくれた、バイク事故に遭った瞬間のような銅像と緑が美しいキャンパスの景観は、絶望的な不調という十字架を背負わされた状態でなお、佳き思い出として筆者の中に残ったのでした。あるいはきっとここには、また何か用があるに違いない。そんな親近感に似た予感を、うっすらと感じていたのかもしれません。銅像よ。その時、また会いに来るからね。
 
次回、eスクールのキーパーソン「コーチ」を紹介します。
 
 
 

いーすく! #05 教育コーチ!

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蝉時雨、室外機のうなり、海水浴場から聞こえてくる甲高い子供達の声。いつもの暑さが空気を支配する中、筆者は最後の追い込みを続けていました。
 

#5 教育コーチ!

 
筆者がeスクールに入学した年(2011年)は東日本大震災の影響があったことをこれまでも述べてきました。そのため学期末が例年より3週間ほど遅い8月下旬となり、真夏の時期にも画面に食い入る時間が続いたのでした。歴史に残る激闘となったスクーリング(ソフトボール)も、本来は学期末の締めくくりであるはずが、ちょっとしたイベント程度の位置付けとなってしまったことは否めません。あの吐き気の向こうに学期末がある!でしたらもうちょっと捨て身で大ハッスル、それこそ吐きながらベースランニングとかできたかもしれませんが、まあもうそれは生きて帰れただけでいいんです。
 
講義に話を戻します。この学期後ろ倒しによって、例えば鬼の必修科目である統計学は「せっかくだから出血大サービス」とばかりに第17回まで設定され、おまけに重厚な期末レポートも課せられていました。本当に出血ものです。ただでさえ不慣れな1年目で、おそらく特上にイレギュラーな展開となった最初の学期でしたが、なんとなく各科目のピーク(期末レポートの締め切り)が前後に散った幸運もあり、乗り切ることができました。
 
まあそんなこんなで、この回では残務整理、もとい、これまで説明しきれていなかった情報を補足していこうと思います。もうだいぶ説明してきたような気がしますが、そういえばeスクールにおける大事なキーワードの説明を忘れていました。教育コーチについてです。
 

クラスの構造と運営スタッフ

 
eスクールの隠れた特徴に「科目定員原則無制限」があります。なにしろ通信のため、教室定員がありません。さすがに他学部のオンライン開講科目や実習的要素が組み込まれている科目はこの限りではないかもしれませんが、履修計画がクジ運で左右されることがないのはもっとアピールしても良い点です。
 
しかし履修者が本当に何百人となった場合、eスクールの生命線であるBBS(ディスカッション)が機能不全に陥る可能性を捨てきれません。そのため履修者数が膨らんだ科目においてはクラス分けがなされます。これまでの経験則からすると、履修者が30人を超えると分割が検討されはじめ、40人を超えると確実に分割されるようです。
 
加えてそれぞれのクラスには担当教員のほか、1名の教育コーチが配属されます。授業コンテンツ(動画)に登場するのは教員ですが、BBSの運営や講義に関する質問への回答などはほとんどの科目で教育コーチが対応していました。ここまで書けば薄々感づかれる方もいらっしゃると思います。
 
教育コーチこそ、科目の充実度を左右する重要な存在であるということを。
 

教育コーチ、その特殊な身分

 
教育コーチ。修士号を所持し、教員と学生を繋ぐメンターの役割を果たす人。「通信教育」という概念はもはや一般的な時代ですから、「メンター」というポジションも知られた存在かもしれません。そうであるなら理解は早いはずです。教育コーチとは、いわば高度なメンターです。
 
ここで、これまでお伝えしてきたeスクールでの受講の流れに、主に担当する教え手の情報を括弧書きで付け足すと以下のようになります。
 
①(教員による)履修科目の映像を視聴する
②(教育コーチが主導する)BBSにおいて意見や感想を述べる、あるいはグループ課題に取り組む
③(教育コーチによる)コメントがつけばレスを返す
④(教育コーチが指し示す)課題や小テストが出ていれば取り組む
⑤(教育コーチ宛に)分からない箇所の質問を行う
 
ここから、科目の内容にかかわらず、受講生は教育コーチと対峙する機会が続くことがお分かりいただけたかと思います。それゆえ教育コーチの方針や気性が、学修に大きな影響を与えることも想像が付くところです。
 

教育コーチは敵か味方か

 
教育コーチという謎ポジションを意識するにあたりまず気になるのが、教育コーチと学生の距離感です。果たして教育コーチは、どちらかというと学生寄りなのでしょうか、はたまた教員寄りなのでしょうか。
 
これは学生側からすると「教員側」と思ってほとんど正解です。より身近な事例を持ち出すなら、Project RunwayにおけるTim Gunn(※1)のポジションです。少なくとも筆者が履修した科目のほとんどで、教育コーチはいわゆる「先生」に準じた働きをみせていました。
 
そうなると科目を履修するにあたり、学生としては教員だけでなく教育コーチの情報も知っておきたいところです。しかし教育コーチは教員に任命権があるため、情報の入手は簡単ではありません。言うなれば、彼(教員)のことは選べても、彼の親(教育コーチ)のことは分からないということです。や、より正確に喩えるなら、家柄(科目名=教員)で選んだのだから、実際にお付き合いする彼(教育コーチ)のことはあんまり気にしてもしゃーない、ということです。なんか余計エグい例えになってしまったので、やっぱり忘れてください。
 

教育コーチ、タイプ別対処法

 
人生いろいろ、教育コーチもいろいろ。個々のコーチの情報が分からない以上、大枠から対処法を検討するしかありません。ということで、ここでは教育コーチをタイプ別に分類しつつ、対処法をおさらいしてみましょう。
 
1.まめまめさん
いわゆる量産型ノーマルタイプです。学生の質問に対しまめまめしく対応する、教育コーチという看板に相応しい存在です。BBSでは出しゃばらず、しかし必要なレスはつけてくれる。レポートの締め切り間際に汲々としても、しっかりとそれなりの対応をするなど、メンターとして申し分のない働きを見せます。こうしたコーチに巡り会えた場合、学生は特に案ずることはありません。
 
2.超まめまめさん
こちらはノーマルタイプがメタモルフォーゼし、かなり懇切丁寧に対応してくるタイプです。具体的にはBBSへのコメントに驚くほどの長文を返したり、ディスカッションがいくら続いても自分のコメントで終わらせはしない!とばかりにいつまでも返信をくれたりします。これを鬱陶しいと思うか大サービスと取るかは科目への興味次第ですが、基本的には善人であるので、何も恐れることはありません。そのため特に案ずることはありません。
 
3.リクルート機能つき超まめまめさん
実は教育コーチは科目を担当する教員と同門、あるいは同系統の専門領域を持つ研究者であることがほとんどです。特に教員と同じゼミの関係者である場合、随所で教員が担当する別の科目やゼミを紹介してきます。筆者が言いたいのはこれはマナー違反ということではなく、ここまで踏み込んで説明する教育コーチはほぼ例外なく、この科目においても本気で取り組んでいるということです。実際問題、担当教員のゼミ配属を検討している学生にとってはこうした教育コーチの情報がまさに渡りに船となります。一方そこまで検討していない学生にとってもゼミに関する情報が得られるのは貴重ですから、特に案ずることはありません。
 
4.さばさばさん
こちらは一転、ややドライな教育コーチです。質問への返答もそっけなく、いかにも仕事ですという雰囲気を隠さないのがちょっと鼻につきます。しかし役割自体はしっかり遂行するのもこのタイプです。むしろ冷静に論理的に厳しい事実を指摘してくれたことで、後になって助かったということも起こります。その時々はとっつきにくいかもしれませんが、案ずることはありません。
 
5.イライラさん
ただしごく一部、冷静である、という言い方で納得できない教育コーチもおります。やたらと上から目線で対応してきたり、明らかに苛立ちを表してきたりと、冷静どころか頭に血が上っているのではないかと思われるタイプです。教育コーチも人間ですから、たまには虫の居所が悪くなってしまうのでしょう。基本的に案ずることはありませんが、それが長期間続くような場合は教員あるいは事務局に相談しましょう。
 
6.なんもしないさん
こちらはイライラ系とは真逆の、とにかく何も対応しないネグレクトタイプです。誤解なきようにつけ加えますと、教育コーチの任務は科目ごと(教員の方針ごと)に異なっているため、Aという科目で受けたホスピタリティがBという科目でも実装されているという保証はありません。そのため科目Aを経験した学生が科目Bを受講して「なんもしない教育コーチがおる!教育だ!」と憤ってしまうケースもままあるのですが、これについては学生側も冷静になることが重要です。なにより、なにもしない以上は学生的には精神的な害も受けないので、無理に案ずることはありません。本当に困ったときは、教員に直接コンタクトを取ればよいのです。
 
7.教員さん
ここまで教育コーチを紹介してきましたが、BBSには教員本人もたまに降臨します。それどころかコーチより出現頻度が高く、教育コーチが霞むようなハイパーまめまめな先生もいらっしゃいます。ただし学生としては、コメントをつけてくれる相手が教員でも教育コーチでも特に意味は変わらないので、案ずることもありません。
 
以上、たかだか数ヶ月とはいえ濃密なコミュニケーションを取る間柄となる教育コーチですから、その関係はどのようなタイプであれ円満といきたいところです。しかし結論として、教育コーチがどのようなタイプであれ、学生が案ずることはほとんどありませんし、制御できることもありません。
 
それよりも、せっかくの機会です。履修の段階では教員しか(専門家は)いないと思っていたところに、もっと気さくな専門家が登場したわけですから、叩いてひねってナンボではないでしょうか。分からないことに関する質問はもちろん、コーチの人となりを訊くなど、学生側から積極的にアプローチすることだって、科目の方針を逸脱しない限りはどんどんやっていいでしょう。はたまた教育コーチに本気を出させてやる!という気概で、続々と合法的なパンチ(BBSでの鋭いコメント)を打ち込んでみるのも一興です。そのために科目周辺の色々な情報を勉強して、まとめて、練り直して・・・
 
きっとそうなったら、どんな科目も少し楽しくなっているはずです。
 

ホームルーム制度と教育コーチと担任

 
そんな丁々発止の関係を築ける可能性がある科目BBSですが、惜しむらくはそれが半期で終わってしまうという現実です。意気投合した仲間や教育コーチや教員とは、おそらく一度も生で会うことはないまま今生の別れとなってしまうのがeスクールのちょっと切ないところです。
 
この悲しき特性をカバーすべく、eスクール事務局は斜め上の仕組みを用意していました。それはホームルーム制度です。具体的に説明しますと、eスクール生は入学と同時に、仮想の「ホームルーム」に配属されます。これは入学年や入学コース、入学した学科に基づいて設定されており、筆者の場合は同一入学年(2011年)の同一コース(βコース)、同一学科(環境科)の22名(←入学者数)がそのまま1つのホームルームに配属されていました。
 
そして面白いのは、こうしたホームルームにも担任の先生(教員)と担当の教育コーチが配属されるということです。コースナビのトップページから「ホームルーム」のリンクをクリックすると、そこには特別な機能が!
 
・・・あるわけではなく、「ホームルーム担任」と題した短めの動画と「ホームルームBBS」と銘打たれたリンクが淋しく存在しているだけでした。
 
いやさすがにこれは厳しい。日々BBSへの書き込みを余儀なくされている学生でも、誰が参加しているかもよくわからない(※2)ホームルームBBSにてはしゃぐことは難易度が高すぎます。加えて担当となった野崎教育コーチ(仮名)はそのBBS内で「何をすればいいのかわからない。特に何も言われていない」と供述するような状況で、もうどうしようもありません。
 
野崎コーチの名誉のために書き加えると、コーチはそれでも月一ペースでまめまめしく話題を投稿していました。しかしおそらく学生の全員がそれにどう対応していいのかわからず、ついに野崎コーチは他職への転向(常勤職)という致し方ない理由で交代してしまいました。まさに万事休すです。最初から休んでいたようなものですが。
 
しかしそんな絶望的な状況下で、風穴を開けた猛者がいました。担任の藤沢先生(仮名)です。
 
藤沢先生は人間科学部のそうそうたる先生方の中では若い方と思われる先生で、時の洗礼を受けていないものは読むなと言わんばかりにギラついた信念を胸に秘めているような雰囲気を湛えていました。しかし藤沢先生担当の「環境とデザイン(仮名)」では、レポートの提示方法やカメラワークなどで様々な試みを取り入れるなど無邪気な一面もみせており、筆者の第一印象は「話せる熱血漢」というポジティブなものでした。こんな素敵な先生が担任とあれば、さぞかしホームルームも盛り上がりそうなものです。
 
しかしBBSと共に示された動画内で藤沢先生は「何をすればいいのか分からない。特に何も言われていない」などと、科目で見せた熱さはどこへやった!と言いたくなるような冷淡な供述を最後に(ホームルームの)表舞台から姿をくらましていました。ぶっちゃけ、BBS野崎コーチブログ化現象に拍車を掛けたのは藤沢先生です。
 
そんな藤沢先生から突如としてホームルームBBSに生々しい書き込みがなされたのが、2012年春学期の終わり頃でした。
 
「大学関係で嫌なことがあったので、おいしいご飯でも食べて飲まないとやってられない!(中略)飲み会やりましょう。一緒に飲んでくれる人居ませんか」
 
いきなりどうしたの? やだ怖い・・・
 
しかし、これはeスクール生にとって、先生とリアルな場で出会う千載一遇のチャンスであることに気づくのに時間はかかりませんでした。すぐさま「ぜひ!」と、まるでクラスのムードメーカーであったかのような軽い気持ちで返信し、ありがたいことに呼応者も現れ、かくして初めてのホームルームオフ会(クラス会)が実現することとなりました。
 

最初で最後のクラス会、リアル藤沢先生初登場

 
東京都M市。藤沢先生の地元であるこの街に、ホームルームメート数名が集まりました。筆者は顔の覚えが悪く、有名人と一般人を識別できないという短所を抱えて生きていますが、それでも最初に藤沢先生の実体を見つけたときは妙な感銘がありました。
 
「飲みましょう」
 
藤沢先生はそう手短に言うと、一行はM市の中心駅から少し離れた場所にある藤沢先生ご贔屓のお店に移動し、さっそくホームルームオフ会(クラス会)が始まりました。といっても、ホームルームらしいことは1ミリもやらなかったと記憶しています。とにかく楽しい時間でした。藤沢先生は「嫌なことがあった」という書き込み通りどこか浮かない顔でしたが、その嫌なことが何なのかは飲みが少し進んでから、あたかも取調室でカツ丼を出されながら「故郷(くに)でおっかさんが泣いてるぞ」と警部につぶやかれた途端に完落ちする真犯人のごとく、蕩々と語り始めました。
 
「役をやりたくないんだよ・・・これまでずっと目立たず生きてきたのに・・・(涙目)」
 
どうやら藤沢先生は、この秋から大学内での重要な役どころを仰せつかることになったようです。大学教員が学内の様々な役どころ(○○主任、とか、○○学科部長とかそういうもの)を兼務することはよく知られているところですが、藤沢先生はそういう役どころが大の苦手らしく、ずっとその任を与えられないよう密やかに過ごしてきたといいます。大学教員ともなるとそんな高度な印象操作を意識しながら活動できるのか・・・と、とても感心したことを覚えています。まあ失敗したみたいですが。
 
それから藤沢先生の愚痴やら励ましやら、途中には藤沢先生が「主人」と崇める奥様からの着信で迸る緊張感の共有など、夢のような時間はあっという間に過ぎました。
 
「いてて・・・痛風なんだよね。でも楽しかった。今日はわざわざ来てくれてありがとう。人生は楽しんだ者勝ち!」
 
オフ会もお開きとなった別れ際、痛風持ちであることもバラしてくれた藤沢先生の表情は、少し元気を取り戻したようでした。
 

ホームルームのその後

 
ホームルームはその後、2012年度を以て解体となりました。翌年度から「学年」ではなく「居住地域」を単位としたホームルームに再編されることとなったためです。藤沢先生と野崎コーチ(2年目からは植田コーチ(仮名))もお役御免となり、せっかくの絆も過去帳入りとなりました。どうやら別のとあるホームルームでは、学生間で自発的に盛り上がり、担任の先生やコーチを巻き込んでの定期オフ会が開催されるという驚愕の事例もあったようです。深海魚が獲物を見つけるかのような貪欲さでやっとこさ出会いの場を用立てられた我々とは大きな違いです。
 
とはいえ過半数の学生にとって、残念ながら(学年単位の)ホームルームという枠組みは大きな意味をもたらさないものだったような気がしてなりません。しかしあのとき「クラス会」が実現したこと、それだけでもこのホームルームが存在した意味はあったと筆者は今も思っています。それまで、画面では会っていても手の届かない存在だった生の教員と出会えたこと、つまりは手をのばせば手がふれることもあるということをeスクール生の立場で知ることができたのは、本当に掛け替えのない体験だったのです。
 
え、生の出会いなんてスクーリングで体験したじゃないかって?
 
・・・あれは悪夢だったからノーカウントで。
 
次回はeスクールでなにかと取りざたされるキーワード「有名人」について紐解いていきます。
 
 
 
 
【注】
※1:2019年現在、「Project Runway」のメンター役にはC.Sirianoが就いている。一方Tim Gunnは2020年現在、同系統の別番組「Making The Cut」のメンター役に就任している
 
※2:学生がホームルーム参加者の名簿を見ることはできませんでした。少なくとも2011年当時は。
 
【参考】
教育コーチについては以下のページが詳しいので、興味ある方はご一読ください。
早稲田大学アカデミックソリューション:通信課程を支える「教育コーチ」の育成・管理をはじめ、業務全般請け負います
 
 
もう大学名も出してしまった・・・

いーすく! #06 有名人!

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舞台は整いました。
 
徐々にざわめき出す館内。重々しい赤の緞帳の向こうには満場のお客様が待っているようです。監督、スタッフ、役者仲間、マネージャーや事務所のみんな、製作に携わったすべての関係者の万感の思いが充満する映画の封切り舞台挨拶の舞台袖で、その人は思い出してしまいました。
 
中間レポート、まだ出してない。
 

#6 有名人!

 
隙あらば自分語りで申し訳ないのですが、銀幕だのスポットライトだのといった目映い世界とは別の惑星に居住している筆者でも、エキストラとして映画撮影の現場に立ち入ったことがあります。具体的に言うとレインボーブリッジを封鎖云々な映画のシリーズ三作目で、署を出てくる主要登場人物を一目見ようと署の前に群がる人々の一員、というエキストラで参加しました。確かそのシリーズのファン向けに事前に募集をかけていて、家族が応募したら当たっちゃったとか、そういう話だったと思います。
 
また更に自分の経験談で大変恐縮ですが、生涯で一度だけ、お台場のテレビ局の音楽番組の観覧希望に当選し、スタジオ収録を間近で見たことがあります。収録は新曲の演奏場面で、ライブハウスのように観客がぎゅう詰めにされた状態でひたすら盛り上がっているという、あの中のモブです。これもアーティストのファンクラブで観覧募集があって、たまたま当選したということだったと思います。
 
で、映画でもスタジオ収録でも、痛感したことはただ一つでした。長い。とにかく長い。しかも待たされた場所がとんでもないというのも共通していました。
 
映画の方は未完成のビルの一フロア、灯りもなく、かろうじて石油ストーブが数台あるという待機場所でした。あまりのことに、もう撮影が始まっているのかな?と勘違いするほどでした。確かに映画撮影でエキストラの詰所が映り込むのは不都合ですし、別の場所にエキストラを囲うための小屋を建てる予算を確保するのももったいないです。そのためこの状況に不満はありませんでしたが、二度は経験しなくていいかな、とも思いました。
 
対してスタジオ収録は、さすがに詰所は屋内でした。しかしそこは御影石で囲まれたよくあるエントランス空間で、しかもそこでひたすら(いつ呼ばれるか分からない状態で)床に直に座らされるという、これまたエキストラらしい扱いでした。せめて部屋か、部屋でないならイスが欲しかったところです。いざ本番となったとき、下半身はガタガタでした。
 
そして映画でもスタジオでも、軽く2時間は何もない時間がありました。とにかく映画もテレビも、待つ、待つ、待つ。さすがに役者さんは設えの良い前室で待っているのだと思いますが、待つという意味では同じでしょう。役者は待つのが仕事と聞いたことがありますが、これは慣用表現じゃなくてそのままなんだなと思いました。
 

eスクールに向いている職業(銀幕スターの場合)

 
さて、このコラムはあくまでeスクールに関するよしなしごとを書き連ねていくものですので、そろそろ本題に入らなければなりません。ここまでeスクール生の生態をお伝えしてきて、eスクールには週の中で結構な時間を割り当てる必要があることは伝わったかと思います。そりゃ大学ですから、少なくともお勉強の時間がガッツリ必要となるのは当たり前です。加えてそれを土日だけでなんとかしようとするとなかなかに大変であるということもお分かりいただけたかと思います。
 
つまり円滑なeスクール生活を送るために、毎日少しずつでもよいので時間を空けられる、あるいはいざとなれば時間を空けられるかは重要です。この条件を満たす職種といえば・・・そう、個人事業主です。農家さん、士業さん、自営業さん、そして芸能人やプロスポーツ選手などがこれにあたります。やっとこれでちょっと伏線を回収できるのですが、実はeスクールは、一見多忙に見えるスターやスポーツ選手でも、やりようによってはやれるタスクであるということを意味します。
 
せっかく映画の現場について書き連ねたこともありますので、ではここで「芸能人eスクール生が映画ロケで長期間自宅を離れる場合」を想定して、仕事と受講をいかに両立できるかをシミュレートしてみたいと思います。
 
1日目(月曜日:晴)
朝、のぞみ号で関西に。ロケ地に向かう。新幹線の車中では受講がむずかしいので、本読みにふける。富士山を眺めたくらいのところで寝てしまった。駅に着く前にマネージャーに起こされ、ロケ地までバンで移動。自然が綺麗だけど、結構な山奥。夜に映画スタッフが集まってのミーティングと頑張りましょうの乾杯。ホテルに戻って本読みと劇中での演奏の確認。
2日目(火曜日:曇)
この日は早朝から外でのロケ・・・だったのだけれど、天候が監督の考えと違うのでこの日は撮らないことに。気を取り直して午後の撮影に備える。ところが午後から急に曇り出したので、午後の撮影も後回しに。監督は夕焼けの色を欲しがっているから仕方がない。このロケは長くなりそう。夜の撮影はなんとか撮り終えて、ホテルに戻ったのは深夜。クタクタ。
3日目(水曜日:雨)
この日は早い段階で私は一日バラすことが決まったので、臨床心理学論とバリアフリー論、あと生物学の受講を済ませる。3科目も見ると目がカラカラになるのをどうにかしたい。夜になって急に現場に行くことになった。最終日に回す予定だった早朝のシーンを明日撮ることに決まったようだ。たぶん今夜は寝られない。
4日目(木曜日:晴)
早朝のカットは幻想的なものになった。徹夜した甲斐があった。やれやれあとは昼の場面だけ・・・と思っていたら、マネージャーから「一旦東京に戻ります」との報せ。監督は「明日また撮りたいから残って欲しい」と当然のご主張。監督、頑張って。でも結局「明日の朝にはここ(現場)に戻しますので!」というマネージャーの約束が決定打となって、東京に戻ることに。マネージャー、いつか殺してやる。午後、タクシーで空港に向かい、夕方東京へ。週刊誌の取材と撮影だった。深夜、大阪にトンボ返り。そのままタクシーで撮影現場に。 
5日目(金曜日:曇)
タクシーの中でだいぶ寝たからよかったけれど、昼からの撮影はまたもリスケ。他の撮影も押しているのと、川の水がまだ濁ってるからって。川の水の濁りとか昨日の段階で分かったんじゃ・・・と思ったけれど、私が言っても仕方がない。そして今日が金曜日であることを、ホテルに戻る最中で思い出した。ヤバい、あと4科目ある。今日で終えないと・・・ 
6日目(土曜日:晴)
結局疲れと役の作り込みで1科目しか受講できず朝を迎えた。でもこの日の撮影はここに来てから一番順調で、助監督もだいたい4分の3は撮れたと言っていた。ただ現場にはインターネット回線が来ていないので、この待ち時間で受講できなかったのは痛い。気を取り直してファンサイト用の写真などを撮ってみる。夜、ホテルで残り3科目を見られるだけ見る。
7日目(日曜日:晴)
結局1科目を残してしまったけれど、撮影は順調に進んだ。次は冬、雪が積もる頃にまた来ることになるようだけれど、とても綺麗な作品に仕上がると思う。のぞみ号で東京に戻り、自宅に戻ったのは午後10時。あと2時間で1科目・・・いける!やってみせる!
 
こんな感じで、合間に映画撮影とマネージャーのやらかしによる右往左往が入っても、1週間のノルマである受講(7科目)をやりきることが十分にできることが分かります。決まった曜日や時間が空けられるのではなく、どこが空くかは分からなくてもどこかは空く(空けられる)という仕事の人でもできるわけですから、eスクールはその気次第で誰でもやれるんじゃないでしょうか。
 

eスクールに向いている職業(サッカー選手の場合)

 
さて、eスクールという言葉を毎年取り上げる媒体にJリーグがあります。実はJリーグとW大eスクールは協定を結んでおり、毎年2~3名の若手Jリーガーをeスクールに受験させ、合格者はプレスリリースで発表するという蜜月ぶりです。
 
Jリーグが協定を結んでまで選手をeスクールに通わせる理由は、セカンドキャリアのためとされています。今や花形職業のひとつとなったプロサッカー選手でも、現役とされる年数は世間一般の職業より短く、そもそも成功を収められる保証はありません。残念ながらプロ選手として大成しなかった場合、手持ちの資格や学歴の有無がセカンドキャリアのスタートラインを大きく変えることは想像に難くありません。
 
つまりJリーガーの何%かは、密かに学生を続けながら試合に出ているということになります。ということは週末の公式戦において、当該週の受講や課題を終えてスッキリしている選手もいれば、残念ながら受講を残してしまった危険水域の選手も混じっていることになります。Jリーグではお馴染みのゲーフラ(ゲームフラッグ)でも、ご贔屓の選手がeスクール生であるなら「○○がんばれ」のような単純なものではなく「レポート提出済ませたか?」「藤沢先生を怒らすな」「早くグループワークに参加しろ」など、受講に関する一言にするとダゾーンも面白がって映してくれる・・・かもしれません。
 
ちなみにインターネット回線があれば、日本へのサーバーアクセスが禁止されている国ではない外国でも受講が可能であり、受講週の切れ目も同じタイミング(日本時間月曜午前5時)となります。そのためeスクール在学中のJリーガーが欧州移籍を果たしても、在学、受講ともに可能です。世界の何処にいても、インターネットが繋がればグループワークに参加してください。
 
ただ風の噂ですが、彼らの卒業率は必ずしも高くないとされています。確かに職場が厳しい勝負の世界ですから、続けられないもっともな理由もたくさんあることでしょう。ただ、せっかくなのでもう少しがんばってみては?とも思わずにいられません。どうかサポーターの皆さま。もしも応援する選手がeスクール生である場合、サッカーの成績と共に学業の成績も上げるような愛あるチャントや喝を与えていただければ、当人もなにくそと思って頑張ってくれる・・・なんてことがあるといいななんて。
 

eスクール生がふと我に返る瞬間

 
しかしどんな職業であるにせよ、eスクール生は常に落単を恐れ、課題の提出期限に敏感になっています。そしてその切迫感は常に意識されている訳ではなく、突然思い出してしまうものです。大事なお客様との商談中や大切な彼とのデートの最中でも、いきなり脳裏に浮かぶのは未提出を示す薄紫色の「レポート提出」カラム。不思議ですよね。あと48時間ある、と思っていたはずなのに、数時間過ぎただけで「あと1日しかないじゃん」と思えて急に焦るのは。
 
人気商売の人に対して、そうではない人たちはなにかと品のない詮索をしがちです。アイドルにだって、実は男関係が派手なんじゃないかとか、思うのは自由ですがツイートしたりすると、よせばいいのにエゴサした当人が傷を負うという事態も起こったりします。派手じゃない!一途!と憤っても言い返せないのが更につらいところです。しかしこの提出期限フラッシュバックについては、詮索するまでもありません。ほぼ全員苦しんでいます。それが檜舞台、舞台挨拶の直前になんて襲ってきたら・・・
 
有名人eスクール生を見かけたら、そんな視点で眺めていると、多少しどろもどろになっていたり、集中力が切れてるんじゃないか?と思ったりしても、ああそういうことなんだなと笑って許してあげてほしいものです。
 
次回はいよいよ「ゼミ」について書いてみます・・・
 
 
 
 
え?そうじゃない?
 
もうちょっとこう、掛け値無しのスーパースターがいるんじゃないのか?ですって?
 
いえ、なんのことかわかりませんね。わかりませんが・・・
 
いえ、わかりますよ。わかります。eスクールには、オリンピックで金メダルを連続で取ってしまう不世出のスポーツ選手が在籍している可能性だってあるわけです。しかし過去ですね、ネット住民を怒らせて燃やされた事例とか多数あるわけで、非常に怖いわけですよ。
 
怒りません?怒りませんね?これはフィクションですよ?無理をしてますからね?
 
で、では。そういう方が所属していたとして、その人にどのような形でアプローチできるか、を、ちょっと想像してみることにしましょうか。
 
繰り返しますがフィクションですよ?お願いしますよ?
 

あの人にアプローチするために

 
巣鴨さん(仮名)はαコース2年目を迎えたレベルAのeスクール生です。元々大卒の資格を有していましたが、臨床心理士を目指すために改めてeスクールで学んでいます。そのため人間科学部の中にある健康福祉科学科に設けられていた科目を重点的に履修していましたが、たまには他の学科の科目も覗いてみたくなり、別学科に設置されている藤沢先生の「環境とデザイン(仮名)」を履修することに決めたのでした。
 
たいていの場合、科目初回のBBSでは履修生の自己紹介が行われる傾向にあります。巣鴨さんはそこで、あの人の名前を見つけます。それは巣鴨さんが密かに追っかけをしている、あのプロスポーツ選手そのものの名前でした。
 
これは・・・夢?
 
文字だけですので表情までは分からずとも、その書きぶりはあの人の人となりが浮かび上がってくるかのような、優しくそれでいて自信に満ちあふれたものでした。こんなことがあるなんて!
 
これはぜひ、お近づきにならなくては・・・
 
待って。落ち着くのよトゲ子(仮名)。初回のBBSの自己紹介でいきなりがっついたらそれこそ驚かせてしまって、以後全くBBSに参加してくれなくなるかもしれない。それどころか、レスをつけたとしたらそれはクラスの他のメンバーにも筒抜けなのだから、「巣鴨さんが原因であの人は出てこなくなった」というストーリーが出来上がってしまうわ。
 
しかもここはeスクールの科目。変に科目とは関係のないことを書き込んでしまったら、自己紹介の動画で見るからに不機嫌そうな顔をしてる桐生コーチ(仮名)が怒り出すかもしれない。絶対そうよ。でもコーチに怒られるだけならまだしも、担当の藤沢先生(仮名)にも怒られたら本当に立つ瀬がない。だいたい藤沢先生は「分かりやすくて熱い先生」って評判だし、有名人か一般人かで学生への態度を変える、なんてことは絶対になさそうな雰囲気だから、変な目立ち方したらそれこそ大変なことになるわ。
 
こんな機会は二度とないかもしれないけれど、あの人の前で落単は嫌。落単以上に、迷惑をかけるのがもっと嫌。
 
分かったわ。これは罠よ。まずはあの人には絡まない。
 
けれどあの人に認識してもらいたい。
 
そのためには・・・自己紹介ね。自己紹介をそれとなく目立たせるのよ。
 
藤沢先生 桐生コーチ 受講生の皆様
初めまして。福祉科の巣鴨と申します。
「環境とデザイン(仮名)」を受講したきっかけは、建築物、特にアリーナのような大きな会場の環境に興味を持ったからです。
特に代々木のアリーナは、不思議な形をしているのに環境とも調和していて、通るたびに不思議だなと感じています。
好きな季節は冬。好きな歴史的人物は安倍晴明。趣味はぬいぐるみを集めることです。
よろしくお願いいたします。
 
・・・我ながらうまく溶け込ませられたんじゃないかしら。え、レスがついたメールがもう来たわ。まさか・・・まさかあの人から?!
 
巣鴨さん
桐生です。
代々木のアリーナとは、代々木体育館でしょうか。私も丹下健三作品の中では好きな部類です。
同時期に建設された東京カテドラルはご存じですか?ぜひご覧になって、感想聞かせてください。
 
コーチかよ。そもそも誰だよ丹下健三って。
 
・・・こんな感じで巣鴨さん(仮名)の浮ついた半期が始まりました。結論から言って、ここでがっつかなかったのはかなり正しい選択です。有名人がいようがいまいが、教育の場を毀損するような行為は正当化されません。それとコーチは大切にしてあげてください。
 

あの人の力になるために

 
学期開始から数週間。巣鴨さん(仮名)は「環境とデザイン(仮名)」の簡単そうに見えて奥が深い建築計画の世界に引き込まれていきます。それはそれでよかったなと思う反面、やはりクラスに同居するあの人のことが頭から離れることもありません。
 
しかし表立って何らかの助太刀をすることは難しく、なによりあの人はあまりBBSに顔を出さなくなりました。BBSへの書き込みが成績評定に大きな影響を及ぼさない場合、有名人でなくとも投稿頻度が下がるのは仕方のないことです。でも、忙しいあの人のことです。もしかしたら、この科目をあきらめてしまったのではないか?
 
そうこうしているうちに、中間レポートが出題されました。
 
これよ。今よトゲ子(自分)。あの人のレポートを助太刀するの。もちろん、そのまま私が作ったレポートを送りつけるのはおかしいし、それを出されたら大変なことになるわ。第一、そんなことをしてあの人が受け取るはずがないわ。だけれどヒントとか、レポートを書くための材料なら・・・
 
そうよ、ファンレターよ。ファンレター経由で情報を植え付けていくのよ!
 
グランプリシリーズお疲れさまです。過去最高のプログラム!
感動はしない!ちゃんとお姿観られなくなるから!と心に決めていたのに、感動して泣いてしまいました。
もちろん、NHK杯も観に行きます!
今年は代々木体育館での開催ですね。代々木体育館は、丹下健三という人が設計したのだそうです。
カナダやヨーロッパで最近建設された現代的なアリーナとモダニズム建築の代々木体育館で、人との距離感や客席からの視線の差異を考えてみてはいかがでしょうか。
これからも応援しています。風邪ひかないでね!
 
場外乱闘を挑んだ巣鴨さんですが、このように互いの学びを深めるためにディスカッションを続けることは、有名人であろうとなかろうとむしろBBSで取り組んで何ら問題ありません。むしろリアルの世界において唐突に「レポートのテーマにうってつけだな」とか「ファイルの拡張子指定なかったよね?」などと口走ると、単純に不安定な人と思われてしまうのでできれば避けましょう。
 
それに加えて、コーチが食いついてきたらぜひ食い下がってみて情報を引き出してください。コーチなんて、叩けば叩くほどコインを吐き出すマリオワールドのブロックのようなものですから。
 

あの人にいつ届いてもいいように

 
講義終盤。巣鴨さん(仮名)の恋慕空しく、特に進展がないまま淡々と期末レポートが提示され、学期は終わろうとしていました。しかし巣鴨さんはもはや不幸ではありませんでした。
 

都市の諸相を読み解くためには、都市の景観をどのような要素に分類するかの視座をどれだけ多く獲得しているかが前提となると考えます。著名なものとしてはアレグザンダーのパタン・ランゲージや、ケヴィン・リンチ提唱の「都市のイメージを構成する要素」があります。特に後者の5要素「パス」「エッジ」「ランドマーク」「ノード」「ディストリクト」を取り上げると・・・

 
巣鴨さんはもうほとんど可能性はないと考えながら、しかしいつその時が来ても良いように、科目の知識を確固たるものとしていきました。環境を語る上で不可欠な考え方の枠組み(フレーム)や計画論の基礎、環境デザインの分析手法を学び、渾身の期末レポートが提出されました。講義の最終回。この回のBBSは多くの科目において、学生から先生や受講生に向けてお別れの挨拶と講義の感想が綴られます。巣鴨さんはラストチャンスとばかりに、あの人への思いをしたためようと思い立ちます。
 
藤沢先生 桐生コーチ 受講生の皆様
福祉科の巣鴨です。
最後に一言だけ、クラスメートへの私信を書かせてください。
お名前をお見かけしたときからずっと、同じクラスの一員として頑張ってきました。
何を聞かれてもいいように、何を困っていても答えられるようにと思って、一生懸命勉強しました。
けれど答えるのはいつも桐生コーチばかりで、満足にやりとりができず
・・・ここまで書いて、巣鴨さんは我に返りました。なんだかこれでは、あの人のためにだけ頑張ったみたいじゃないの。それであの人は喜ぶかしら。
 
思いがけない邂逅で舞い上がった心の動きに任せて、巣鴨さんはだいぶ高いところに来たのでした。しかし本当は、モチベーションこそあの人由来とはいえ、紛れもなく自分の足で登っていたのです。そして辿り着いたこの場所から、最後の最後で「あなたのために」などと言ってしまえば、それまで積み上げてきたものすら崩れてしまうような、そんな気がしたのです。
 
巣鴨さんは最終回のBBSでの挨拶を一から書き直し、先生とコーチに宛てたきわめて簡潔な文章で終わりにしました。
 
巣鴨さんとあの人との(この科目においての)繋がりは、永遠に過去のものとなりました。
 
同時に巣鴨さんの足元には、紛れもなく自分で培った「環境とデザイン(仮名)」に関する知識が残されたのです。丹下健三を足蹴にできる巣鴨さんはもういないのです。自分で学び取ったことを自分の一部分として生きていけることがどれほど素晴らしいことか、巣鴨さんは知ってしまったのです。
 
ちなみに、巣鴨さんのこの選択はやはり大正解です。クラスメートが仮にどんな有名人でも憧れの人でも、同じ受講生という立場です。科目の到達目標を達成するという目的以外の言行は慎むのが常道です。例えば、たまたま図書館で閲覧席の隣に有名人が座ったとして、その人の勉強を妨げてはいけないのと同じです。
 
けれどこの成功体験を、あの人が連れてきてくれたという事実を、やっぱりどうしてもあの人に伝えたくて、巣鴨さんはファンレターの筆を執り始めるのでした。
 

有名人、それはいつもあなたのクラスメート

 
何も通信に限ったことではありませんが、成長において必要なのはライバルと言われます。しかし単にライバルというと、反目しあう仲であるとか嫌いな人でなければならないとか、様々なマイナス要素を併せ呑まなければならないようにも考えてしまいます。筆者はそう思いません。それこそ有名人だって、巣鴨さんが遭遇したあの人だって「ライバル」であり、仲間です。
 
eスクールはこの点、顔が見えないという部分が良い方向に作用すると感じます。もっと言うと、有名人でも学生としては本名で登録するでしょうから、実はあの有名人(本名非公開、芸名が有名)が本名で潜伏している、という可能性もゼロではないのです。隣は何をする人ぞ、ではなく、自分はいつも有名人とクラスメートである(かもしれない)。そう思うと、いつ頼られても良いように準備しておかなくちゃ、ですよ。
 
 
 
いや、だって、マジな話、筆者は在学中、有名人に全く遭遇したことないんですよ。勘弁してくださいよ。
 
あ、ちなみに我が家の犬の名前は「ゆず」といいます。偶然ですよ。
 
 

いーすく! #07 ゼミ!

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街路樹がさわぐ音の中、クリスマスツリーの点灯式がそこかしこで始まる頃、筆者のeスクールライフは大きな岐路に立っていました。2012年秋、ゼミ選択です。
 

#7 ゼミ!

 
eスクールにおいて「~年次」が重視されないことは序盤でお伝えしました。その代わりに存在している階層が「レベル」で、4年コース(βコース、レベル1~4)の場合は「レベル3」への進級時、編入コース(αコース、レベルA~C)の場合は「レベルB」への進級時にゼミへの配属が行われます。要はα・βどちらのコースも、ゼミには卒業までの2レベル(最低2年間)を在籍することになります。
 
さて、このコラムでは大学という組織を体験したことのない方にも分かりやすく理解してもらうために、人によってはまどろっこしいと感じるまでに説明してきました。よーく分かってるよという方は随所で読み飛ばしていただいて構いません。まあだいたい分かっている人は、このコラム自体読む価値がないかもしれませんが。
 

そもそも「ゼミ」って何ぞや

 
「ゼミ」とは、大学に所属する教員の研究室内で行われる「演習」、または「研究室」そのものを表す言葉です。語源はゼミナール(seminar=演習、研究室)というドイツ語で、気取っているだけです。減るもんじゃないので、ここは気取らせてあげてください。
 
ゼミはボスである先生(教員)を頂点とし、助手や大学院生、学部生(1学年で10名、2学年合計でも20名に満たない程度)で構成される、極めて単純に言うと少人数学級です。ただしこれはW大人間科学部での構成であり、他大学や他学部では異なるかもしれません。本コラムでは以降、eスクール(人間科学部)で用いられる「ゼミ」の意味に沿って説明していきます。
 

ゼミに配属される、とは?

 
科目名での「演習」を履修することと同じです。しかしゼミはほとんどの学生のキャンパスライフにおいて中心的存在となるため、「ゼミの配属」とは自ずと「専門科目を履修した」以上の意味を内包しています。多くのゼミの場合、「演習」時間以外でもゼミメンバーと時間を共有する様々な機会が設けられるからです。それだけにゼミの選択は、学生生活(後半戦)の充実を占う上で重要です。科目は担当教員のやり方に反目して受講を放棄しても単位を落とすだけですが、ゼミで担当教員と同じような関係となると、卒業や進級の見通しも危ういものとなります。
 

ゼミに配属されるための条件

 
eスクールでは、次の春学期にレベル3またはレベルBに進級することが予想される学生にゼミ選択のガイドがなされます。手続きの詳細については、メールなどをチェックしていれば大丈夫です。ただし秋学期の受講結果によって昇級までの単位数が足りない、あるいは必修科目の単位を取得していないなどのボーンヘッドが発生した場合、ゼミ配属も来期以降に持ち越しとなります。そのため手続きについて過度に心配する必要はないものの、進級の要件は自らで事前に確認しておくことが重要です。
 

ゼミで取り組むこと

 
ゼミでは前述の「演習」のほか、「卒業研究」を行います。これが世に言う「卒業論文」という一大プロジェクトです。言わばゼミで行うことは卒業論文(以降「卒論」と略記)をしたためることであり、1年目はそのための準備期間(演習)・・・と捉えてもあながち間違いではありません。
 
ちなみに他大学や他学部によっては卒論の位置づけが異なっていたり、そもそもゼミに配属されなくても卒論を書ける、そもそも卒論なんて書かない(!)というケースもあるようです。eスクールのあるW大…もういいや、早稲田大学人間科学部の場合、書かないでよい、ということはあり得ません。それどころか、卒業研究を行う学生は学部内のゼミに配属され、かつ所属するゼミの教員の十分な指導を経なければなりません。堅苦しいように思えますが、卒論の品質を担保するにはここまでしなければならないのだと思われます。大相撲でいうところの、相撲部屋に所属しなければ本場所の土俵に上がれないというのと(たぶん)同じです。とにかく、この大学この学部ではそういうもんだ、ということで納得してください。
 

ゼミ選択のはじまり

 
ゼミに配属されるタイミングは毎年の春学期開始時の一度のみで、よってゼミ選択はその前年度の秋学期に行われます。ゼミを選択するに際してまず気をつけたいのは、①どんなゼミがあるか ②希望する先生やゼミが募集をかけているか の2点です。
 
①については第5回で示した通り、ほとんどの教員が自分のゼミで取り扱っている領域をそのまま専門科目としていることから、自ずと分かってきます。ゼミ選択の段階で「自分はどの分野が合っているんだろう」などと今更ながら考え始めていたら、一周回って考えすぎか一周も回っていないかのどちらかです。
 
それより思わぬ落とし穴が②で、専門科目を開講している教員すべてがゼミを持っている、または募集している訳ではないことに注意が必要です。○○先生の授業が好きなのでゼミ選択しようとしたら△△大学に研究室がある非常勤講師の先生だった!とか、□□先生は来年ご退官で学生を募集していなかった・・・という洒落にならない話も、確認ミスによっては生じてしまいます。とは言っても人間科学部の場合、カバーする学問領域が広いこともあって、近接する領域の先生も多く在籍しています。希望の先生のゼミに入れないからといって、早まってあきらめる必要はありません。
 

ゼミ選択のための準備

 
ゼミへの配属は秋学期の終盤に学生側から希望を出すことができます。大学側が設定した定員に希望者数が満たない(あるいは同数の)場合、ゼミへの配属が決定します。しかし定員以上の希望者数があった場合は、教員が選抜することになっています。人間科学部の場合、ゼミの定員は少なく設定されています。指導機会を確保するために、これは致し方のないところです。そのため人気のあるゼミに数十人の同期が配属、ということは起こりません。
 
かような事情から、多くの教員はゼミ選択の学生に対して選抜前提のレギュレーションを提示しています。鉄板なのは「配属希望を出す前に必ず面談を行う」という条件です。それゆえ人気のゼミでは、面談を経ないで配属希望を出しても希望が通る可能性は低いといえます。他にもゼミごとに様々な条件を提示しているようですが、一大要件が「面談」です。筆者が配属希望を出そうと考えた3つのゼミも、すべて事前面談を求めていました。
 
これは当然というか、2年間つきっきりで指導することになる学生について、何の情報もないよりはあった方がそりゃ楽でしょ、という事情が挙げられます。もちろん面談したからといって配属内定が出ることはありませんが、面談が選抜の材料となることは火を見るよりも明らかです。そのためゼミ選択の学生にとってのこの数ヶ月は、就職活動とまではいかないものの、それなりにスリリングです。
 

いざ、ゼミ面談マラソンへ

 
さて、筆者は前述の通り、同じ領域の3つのゼミに面談希望のアポを取り、面談を行いました。もちろん実際に赴いて、です。eスクール生はSkypeなどでの面談も認められるようですが、実際にお目に掛かった方が印象もいいかなと思って。
 
・面談その1:藤沢先生
ホームルーム担任という奇縁と、担当科目が1年目春学期受講科目の中に入るほど興味深かったこともあり、藤沢先生のゼミは筆者にとって本命でした。ゼミが用意しているウェブサイトで面談の要項を確認し、所沢キャンパスに赴いたのは11月上旬でした。さらっと書いてしまいましたが、あの夏のソフトボールスクーリング以来でしょうか、あのときから全然縮まっていない所要時間の旅程を経て、やってきました。また来ちゃった。
 
藤沢先生が指定した面談場所は藤沢先生の研究室でした。この大学の場合、部屋を意味する「研究室」とは先生個人の個室、書院を意味します。当人の許可なく立ち入ることが出来ない、本棚や机といった家具のレイアウトにも当人の人となりが反映されている(かもしれない)聖域です。
 
面談時の藤沢先生は実に真面目、いつもの講義より真面目なんじゃないかといえるほど真面目でした。部屋も思いのほか整然としていて、とてもインパクト重視の先生の部屋とは思えません。どうしたんですかお酒入ってないときちんとしゃべれるじゃないですか。内心そう思いつつ、面談に臨むための気持ちを軽く持ちすぎたと少し反省したことを覚えています。
 
面談の内容は一応は試験に準ずるかなと思い、あまり具体的に述べないことにします。時間はあっという間に過ぎました。一つだけ、藤沢先生の発言で印象に残った言葉だけは書いておこうと思いますが、筆者にとってはかなり意外な一言でした。
 
「そのテーマなら、上野先生の方がいいんじゃない?」
 
・面談その2:上野先生
新宿区西早稲田。早稲田大学の別の学部が居を構えるキャンパスの一角にあるコーヒーチェーン店のカウンターで、コーヒーか紅茶を飲んでいる姿。それが上野先生を最初に見かけた姿でした。11月中旬、筆者は2件目の面談として上野先生のアポを取り、上野先生が所用を終えた西早稲田で面談となりました。 
 
なにしろ藤沢先生の時とは打って変わってオープンな場所でしたので、全く予想がつかず不安もありました。しかし特に周囲からの視線を感じることもなく、それでいて変に緊張させるような雰囲気でもなかったため、話は結構弾んだように記憶しています。また面談そのものを経験していたこともよかったのかもしれません。
 
話した内容は、例によって詳述しないことにします。一つだけ、時系列的にこちらが後となったこともあって、「藤沢先生から『まさゆめさんのテーマは上野先生がいいよ』と言われました」と正直に告げると、上野先生は微笑みながら「確かにそれは私のテーマですね」と返してくれました。
 
好印象を持ってくれたかな?と思う反面、このゼミに入ったらちょっと大変そうだな、という実感も持ったのでした。
 
・面談その3:武蔵小杉先生
11月下旬、武蔵小杉先生との面談はふたたび所沢キャンパスに赴いて行われました。交通費も時間も結構なことになってきましたが、大切なことですから気にしていられません。武蔵小杉先生が指定した面談場所は「実験室」、これは学部生や大学院生が主に取り仕切っている広めの部屋で、「ゼミ室」とも呼ばれている部屋でした。広めの空間に雑然と置かれた事務机。おお、なんか大学っぽいぞ。
 
面談は複数名で行うグループディスカッション方式でした。例によって細かい内容は伏せたいと思いますが、一つだけ。テーマについて語ったとき、武蔵小杉先生は間髪入れず「上野先生だね、そのテーマは~」と返してきたのでした。うーむ・・・そうなのか。どのゼミでも取り扱っているような気がするけれど・・・
 
ちなみに武蔵小杉先生の風貌はどちらかというと熊的な、ただとても穏やかな熊の雰囲気で、我が子の成長を語る姿は完全にデレデレのお父さん熊でした。その話が面白かったことに端を発し、途中からもはやゼミとは関係のない話で盛り上がったような気がします。これが就活のグループディスカッションなら「場違いに盛り上がった思い出作りグループ」として参加者全員不合格でもおかしくないわけですが、まあでもゼミ面談だし、先生も楽しそうだったし・・・
 
以上、足かけ3週間。所沢キャンパス2往復という予定外の交通費を投じたゼミ面談マラソンは無事完走を果たすことができました。
 

結局、どこにする?

 
面談というプロセスがなければ、筆者はおそらく藤沢ゼミ一択であったと思います。それで配属が叶ったかは希望者数にもよるのでなんともいえませんが、面談を経て余計悩んでしまったというのが正直なところでした。
 
決め手ということでは、藤沢先生が薦める?上野先生が一番適合しているのかもしれません。しかし筆者は藤沢先生が良いのです。ただ「あんまり合わないよ」と言っているかもしれない先生のところにそれでも配属希望を出し、配属は叶ったけれど蓋を開けたらやたら厳しい指導を受ける毎日になってしまった・・・となれば、やめときゃよかったトホホと心が折れるかもしれません。
 
その点、優しい熊さんである武蔵小杉先生のゼミはなんとなく緩い雰囲気で、精神的なことを考えればこちらも捨てがたい選択肢です。困ったら茶飲み話で盛り上がれそうだし。とはいいつつ、やはり適合していないかもしれないゼミを「雰囲気」だけで選ぶのも少し気が引けます。そもそもこの緩さは、よくある体育会系の部活にありがちな罠かもしれません。全然優しくなかったよトホホ、なんてことだって・・・
 
そうなるとやはり上野ゼミが一番手となってきます。しかし実はこちらも難問がありました。それは上野先生が3つのゼミで唯一「スクーリングは必須です」と表明していたことです。理由は十分な指導機会の確保という当然のものでしたが、通うということになれば色々と話が変わってきます。遠いところは何度通っても遠いよトホホ、となること請け合いです。
 
更に考えなければいけないのが希望者多数による選抜です。選抜によって落選した場合、学生は定員に空きのあるゼミに限定された選択希望(二次募集)を強いられます。言うまでもなく、最初の募集で定員が充足してしまったゼミの門戸は閉じられるわけです。当然、希望する3ゼミが二次募集に残っている保証はありません。
 
そのためこの時期は入学年度ほどではないものの、ゼミ選択を行う同期生がどのゼミを希望するかについての情報収集を真面目に行っていました。その結果、藤沢ゼミは選抜となるかもしれない、という気配がありました。むむ、厳しいかもしれないな。
 
しかし思い悩んでも、実際のところは分かりません。いずれにせよ避けたいのは、せっかく面談した3つのゼミすべてに入ることが叶わず、現時点で予想していなかったゼミに入るしかなくなることです。とはいっても希望は出さなければ絶対に通らないわけで・・・
 
月日は流れ、年明けを迎え、いよいよ配属希望を出すときが来ました。
 
筆者が第一希望としたのは上野ゼミでした。
 
そして幸いにも落とされることはなく、無事に上野ゼミへの配属が決まりました。
 
合わせて、今後はスクーリングが定期的に発生するという運命も決まりました。
 

通信とは

 
eスクールという方式の大学の紹介を続けて7回目。ここまで通信制というものの特色や対処法について駄文を連ねてきましたが、いよいよその前提が崩壊しようとしています。何が「いーすく!」だ!「いー」はどこ行ったんだよ!という話になってきますよね。面目ないです。いやでもファミレスだってメインだけ見てやっす!と思って気をよくしてセット注文したら結構良い値段になっちゃうなんて日常茶飯事じゃないですか。無痛治療と言っても全く痛くない歯の治療なんてないんですよ。そもそも虫歯が痛いんだから。そういうもんだと思ってここはどうかひとつ。
 
しかし先述した「スクーリング(対面)でなければ卒論指導は難しい」という上野先生の方針には説得力があります。なにより、きちんと指導してもらえるという確約がもらえたことは、日々孤独感に苛まれる通信生としては望外の僥倖でもありました。最終的には研究テーマの適合度に加えて丁寧な指導機会が与えられる可能性にかけて、第一希望の決断を下したのでした。これが合ってるか間違っているかはわかりませんが、それは時間が決めてくれることでしょう。
 
 
次回、ゼミ選択まで行かなかったけど面白かった科目について書いてみます。