いーすく! #05 教育コーチ!

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蝉時雨、室外機のうなり、海水浴場から聞こえてくる甲高い子供達の声。いつもの暑さが空気を支配する中、筆者は最後の追い込みを続けていました。
 

#5 教育コーチ!

 
筆者がeスクールに入学した年(2011年)は東日本大震災の影響があったことをこれまでも述べてきました。そのため学期末が例年より3週間ほど遅い8月下旬となり、真夏の時期にも画面に食い入る時間が続いたのでした。歴史に残る激闘となったスクーリング(ソフトボール)も、本来は学期末の締めくくりであるはずが、ちょっとしたイベント程度の位置付けとなってしまったことは否めません。あの吐き気の向こうに学期末がある!でしたらもうちょっと捨て身で大ハッスル、それこそ吐きながらベースランニングとかできたかもしれませんが、まあもうそれは生きて帰れただけでいいんです。
 
講義に話を戻します。この学期後ろ倒しによって、例えば鬼の必修科目である統計学は「せっかくだから出血大サービス」とばかりに第17回まで設定され、おまけに重厚な期末レポートも課せられていました。本当に出血ものです。ただでさえ不慣れな1年目で、おそらく特上にイレギュラーな展開となった最初の学期でしたが、なんとなく各科目のピーク(期末レポートの締め切り)が前後に散った幸運もあり、乗り切ることができました。
 
まあそんなこんなで、この回では残務整理、もとい、これまで説明しきれていなかった情報を補足していこうと思います。もうだいぶ説明してきたような気がしますが、そういえばeスクールにおける大事なキーワードの説明を忘れていました。教育コーチについてです。
 

クラスの構造と運営スタッフ

 
eスクールの隠れた特徴に「科目定員原則無制限」があります。なにしろ通信のため、教室定員がありません。さすがに他学部のオンライン開講科目や実習的要素が組み込まれている科目はこの限りではないかもしれませんが、履修計画がクジ運で左右されることがないのはもっとアピールしても良い点です。
 
しかし履修者が本当に何百人となった場合、eスクールの生命線であるBBS(ディスカッション)が機能不全に陥る可能性を捨てきれません。そのため履修者数が膨らんだ科目においてはクラス分けがなされます。これまでの経験則からすると、履修者が30人を超えると分割が検討されはじめ、40人を超えると確実に分割されるようです。
 
加えてそれぞれのクラスには担当教員のほか、1名の教育コーチが配属されます。授業コンテンツ(動画)に登場するのは教員ですが、BBSの運営や講義に関する質問への回答などはほとんどの科目で教育コーチが対応していました。ここまで書けば薄々感づかれる方もいらっしゃると思います。
 
教育コーチこそ、科目の充実度を左右する重要な存在であるということを。
 

教育コーチ、その特殊な身分

 
教育コーチ。修士号を所持し、教員と学生を繋ぐメンターの役割を果たす人。「通信教育」という概念はもはや一般的な時代ですから、「メンター」というポジションも知られた存在かもしれません。そうであるなら理解は早いはずです。教育コーチとは、いわば高度なメンターです。
 
ここで、これまでお伝えしてきたeスクールでの受講の流れに、主に担当する教え手の情報を括弧書きで付け足すと以下のようになります。
 
①(教員による)履修科目の映像を視聴する
②(教育コーチが主導する)BBSにおいて意見や感想を述べる、あるいはグループ課題に取り組む
③(教育コーチによる)コメントがつけばレスを返す
④(教育コーチが指し示す)課題や小テストが出ていれば取り組む
⑤(教育コーチ宛に)分からない箇所の質問を行う
 
ここから、科目の内容にかかわらず、受講生は教育コーチと対峙する機会が続くことがお分かりいただけたかと思います。それゆえ教育コーチの方針や気性が、学修に大きな影響を与えることも想像が付くところです。
 

教育コーチは敵か味方か

 
教育コーチという謎ポジションを意識するにあたりまず気になるのが、教育コーチと学生の距離感です。果たして教育コーチは、どちらかというと学生寄りなのでしょうか、はたまた教員寄りなのでしょうか。
 
これは学生側からすると「教員側」と思ってほとんど正解です。より身近な事例を持ち出すなら、Project RunwayにおけるTim Gunn(※1)のポジションです。少なくとも筆者が履修した科目のほとんどで、教育コーチはいわゆる「先生」に準じた働きをみせていました。
 
そうなると科目を履修するにあたり、学生としては教員だけでなく教育コーチの情報も知っておきたいところです。しかし教育コーチは教員に任命権があるため、情報の入手は簡単ではありません。言うなれば、彼(教員)のことは選べても、彼の親(教育コーチ)のことは分からないということです。や、より正確に喩えるなら、家柄(科目名=教員)で選んだのだから、実際にお付き合いする彼(教育コーチ)のことはあんまり気にしてもしゃーない、ということです。なんか余計エグい例えになってしまったので、やっぱり忘れてください。
 

教育コーチ、タイプ別対処法

 
人生いろいろ、教育コーチもいろいろ。個々のコーチの情報が分からない以上、大枠から対処法を検討するしかありません。ということで、ここでは教育コーチをタイプ別に分類しつつ、対処法をおさらいしてみましょう。
 
1.まめまめさん
いわゆる量産型ノーマルタイプです。学生の質問に対しまめまめしく対応する、教育コーチという看板に相応しい存在です。BBSでは出しゃばらず、しかし必要なレスはつけてくれる。レポートの締め切り間際に汲々としても、しっかりとそれなりの対応をするなど、メンターとして申し分のない働きを見せます。こうしたコーチに巡り会えた場合、学生は特に案ずることはありません。
 
2.超まめまめさん
こちらはノーマルタイプがメタモルフォーゼし、かなり懇切丁寧に対応してくるタイプです。具体的にはBBSへのコメントに驚くほどの長文を返したり、ディスカッションがいくら続いても自分のコメントで終わらせはしない!とばかりにいつまでも返信をくれたりします。これを鬱陶しいと思うか大サービスと取るかは科目への興味次第ですが、基本的には善人であるので、何も恐れることはありません。そのため特に案ずることはありません。
 
3.リクルート機能つき超まめまめさん
実は教育コーチは科目を担当する教員と同門、あるいは同系統の専門領域を持つ研究者であることがほとんどです。特に教員と同じゼミの関係者である場合、随所で教員が担当する別の科目やゼミを紹介してきます。筆者が言いたいのはこれはマナー違反ということではなく、ここまで踏み込んで説明する教育コーチはほぼ例外なく、この科目においても本気で取り組んでいるということです。実際問題、担当教員のゼミ配属を検討している学生にとってはこうした教育コーチの情報がまさに渡りに船となります。一方そこまで検討していない学生にとってもゼミに関する情報が得られるのは貴重ですから、特に案ずることはありません。
 
4.さばさばさん
こちらは一転、ややドライな教育コーチです。質問への返答もそっけなく、いかにも仕事ですという雰囲気を隠さないのがちょっと鼻につきます。しかし役割自体はしっかり遂行するのもこのタイプです。むしろ冷静に論理的に厳しい事実を指摘してくれたことで、後になって助かったということも起こります。その時々はとっつきにくいかもしれませんが、案ずることはありません。
 
5.イライラさん
ただしごく一部、冷静である、という言い方で納得できない教育コーチもおります。やたらと上から目線で対応してきたり、明らかに苛立ちを表してきたりと、冷静どころか頭に血が上っているのではないかと思われるタイプです。教育コーチも人間ですから、たまには虫の居所が悪くなってしまうのでしょう。基本的に案ずることはありませんが、それが長期間続くような場合は教員あるいは事務局に相談しましょう。
 
6.なんもしないさん
こちらはイライラ系とは真逆の、とにかく何も対応しないネグレクトタイプです。誤解なきようにつけ加えますと、教育コーチの任務は科目ごと(教員の方針ごと)に異なっているため、Aという科目で受けたホスピタリティがBという科目でも実装されているという保証はありません。そのため科目Aを経験した学生が科目Bを受講して「なんもしない教育コーチがおる!教育だ!」と憤ってしまうケースもままあるのですが、これについては学生側も冷静になることが重要です。なにより、なにもしない以上は学生的には精神的な害も受けないので、無理に案ずることはありません。本当に困ったときは、教員に直接コンタクトを取ればよいのです。
 
7.教員さん
ここまで教育コーチを紹介してきましたが、BBSには教員本人もたまに降臨します。それどころかコーチより出現頻度が高く、教育コーチが霞むようなハイパーまめまめな先生もいらっしゃいます。ただし学生としては、コメントをつけてくれる相手が教員でも教育コーチでも特に意味は変わらないので、案ずることもありません。
 
以上、たかだか数ヶ月とはいえ濃密なコミュニケーションを取る間柄となる教育コーチですから、その関係はどのようなタイプであれ円満といきたいところです。しかし結論として、教育コーチがどのようなタイプであれ、学生が案ずることはほとんどありませんし、制御できることもありません。
 
それよりも、せっかくの機会です。履修の段階では教員しか(専門家は)いないと思っていたところに、もっと気さくな専門家が登場したわけですから、叩いてひねってナンボではないでしょうか。分からないことに関する質問はもちろん、コーチの人となりを訊くなど、学生側から積極的にアプローチすることだって、科目の方針を逸脱しない限りはどんどんやっていいでしょう。はたまた教育コーチに本気を出させてやる!という気概で、続々と合法的なパンチ(BBSでの鋭いコメント)を打ち込んでみるのも一興です。そのために科目周辺の色々な情報を勉強して、まとめて、練り直して・・・
 
きっとそうなったら、どんな科目も少し楽しくなっているはずです。
 

ホームルーム制度と教育コーチと担任

 
そんな丁々発止の関係を築ける可能性がある科目BBSですが、惜しむらくはそれが半期で終わってしまうという現実です。意気投合した仲間や教育コーチや教員とは、おそらく一度も生で会うことはないまま今生の別れとなってしまうのがeスクールのちょっと切ないところです。
 
この悲しき特性をカバーすべく、eスクール事務局は斜め上の仕組みを用意していました。それはホームルーム制度です。具体的に説明しますと、eスクール生は入学と同時に、仮想の「ホームルーム」に配属されます。これは入学年や入学コース、入学した学科に基づいて設定されており、筆者の場合は同一入学年(2011年)の同一コース(βコース)、同一学科(環境科)の22名(←入学者数)がそのまま1つのホームルームに配属されていました。
 
そして面白いのは、こうしたホームルームにも担任の先生(教員)と担当の教育コーチが配属されるということです。コースナビのトップページから「ホームルーム」のリンクをクリックすると、そこには特別な機能が!
 
・・・あるわけではなく、「ホームルーム担任」と題した短めの動画と「ホームルームBBS」と銘打たれたリンクが淋しく存在しているだけでした。
 
いやさすがにこれは厳しい。日々BBSへの書き込みを余儀なくされている学生でも、誰が参加しているかもよくわからない(※2)ホームルームBBSにてはしゃぐことは難易度が高すぎます。加えて担当となった野崎教育コーチ(仮名)はそのBBS内で「何をすればいいのかわからない。特に何も言われていない」と供述するような状況で、もうどうしようもありません。
 
野崎コーチの名誉のために書き加えると、コーチはそれでも月一ペースでまめまめしく話題を投稿していました。しかしおそらく学生の全員がそれにどう対応していいのかわからず、ついに野崎コーチは他職への転向(常勤職)という致し方ない理由で交代してしまいました。まさに万事休すです。最初から休んでいたようなものですが。
 
しかしそんな絶望的な状況下で、風穴を開けた猛者がいました。担任の藤沢先生(仮名)です。
 
藤沢先生は人間科学部のそうそうたる先生方の中では若い方と思われる先生で、時の洗礼を受けていないものは読むなと言わんばかりにギラついた信念を胸に秘めているような雰囲気を湛えていました。しかし藤沢先生担当の「環境とデザイン(仮名)」では、レポートの提示方法やカメラワークなどで様々な試みを取り入れるなど無邪気な一面もみせており、筆者の第一印象は「話せる熱血漢」というポジティブなものでした。こんな素敵な先生が担任とあれば、さぞかしホームルームも盛り上がりそうなものです。
 
しかしBBSと共に示された動画内で藤沢先生は「何をすればいいのか分からない。特に何も言われていない」などと、科目で見せた熱さはどこへやった!と言いたくなるような冷淡な供述を最後に(ホームルームの)表舞台から姿をくらましていました。ぶっちゃけ、BBS野崎コーチブログ化現象に拍車を掛けたのは藤沢先生です。
 
そんな藤沢先生から突如としてホームルームBBSに生々しい書き込みがなされたのが、2012年春学期の終わり頃でした。
 
「大学関係で嫌なことがあったので、おいしいご飯でも食べて飲まないとやってられない!(中略)飲み会やりましょう。一緒に飲んでくれる人居ませんか」
 
いきなりどうしたの? やだ怖い・・・
 
しかし、これはeスクール生にとって、先生とリアルな場で出会う千載一遇のチャンスであることに気づくのに時間はかかりませんでした。すぐさま「ぜひ!」と、まるでクラスのムードメーカーであったかのような軽い気持ちで返信し、ありがたいことに呼応者も現れ、かくして初めてのホームルームオフ会(クラス会)が実現することとなりました。
 

最初で最後のクラス会、リアル藤沢先生初登場

 
東京都M市。藤沢先生の地元であるこの街に、ホームルームメート数名が集まりました。筆者は顔の覚えが悪く、有名人と一般人を識別できないという短所を抱えて生きていますが、それでも最初に藤沢先生の実体を見つけたときは妙な感銘がありました。
 
「飲みましょう」
 
藤沢先生はそう手短に言うと、一行はM市の中心駅から少し離れた場所にある藤沢先生ご贔屓のお店に移動し、さっそくホームルームオフ会(クラス会)が始まりました。といっても、ホームルームらしいことは1ミリもやらなかったと記憶しています。とにかく楽しい時間でした。藤沢先生は「嫌なことがあった」という書き込み通りどこか浮かない顔でしたが、その嫌なことが何なのかは飲みが少し進んでから、あたかも取調室でカツ丼を出されながら「故郷(くに)でおっかさんが泣いてるぞ」と警部につぶやかれた途端に完落ちする真犯人のごとく、蕩々と語り始めました。
 
「役をやりたくないんだよ・・・これまでずっと目立たず生きてきたのに・・・(涙目)」
 
どうやら藤沢先生は、この秋から大学内での重要な役どころを仰せつかることになったようです。大学教員が学内の様々な役どころ(○○主任、とか、○○学科部長とかそういうもの)を兼務することはよく知られているところですが、藤沢先生はそういう役どころが大の苦手らしく、ずっとその任を与えられないよう密やかに過ごしてきたといいます。大学教員ともなるとそんな高度な印象操作を意識しながら活動できるのか・・・と、とても感心したことを覚えています。まあ失敗したみたいですが。
 
それから藤沢先生の愚痴やら励ましやら、途中には藤沢先生が「主人」と崇める奥様からの着信で迸る緊張感の共有など、夢のような時間はあっという間に過ぎました。
 
「いてて・・・痛風なんだよね。でも楽しかった。今日はわざわざ来てくれてありがとう。人生は楽しんだ者勝ち!」
 
オフ会もお開きとなった別れ際、痛風持ちであることもバラしてくれた藤沢先生の表情は、少し元気を取り戻したようでした。
 

ホームルームのその後

 
ホームルームはその後、2012年度を以て解体となりました。翌年度から「学年」ではなく「居住地域」を単位としたホームルームに再編されることとなったためです。藤沢先生と野崎コーチ(2年目からは植田コーチ(仮名))もお役御免となり、せっかくの絆も過去帳入りとなりました。どうやら別のとあるホームルームでは、学生間で自発的に盛り上がり、担任の先生やコーチを巻き込んでの定期オフ会が開催されるという驚愕の事例もあったようです。深海魚が獲物を見つけるかのような貪欲さでやっとこさ出会いの場を用立てられた我々とは大きな違いです。
 
とはいえ過半数の学生にとって、残念ながら(学年単位の)ホームルームという枠組みは大きな意味をもたらさないものだったような気がしてなりません。しかしあのとき「クラス会」が実現したこと、それだけでもこのホームルームが存在した意味はあったと筆者は今も思っています。それまで、画面では会っていても手の届かない存在だった生の教員と出会えたこと、つまりは手をのばせば手がふれることもあるということをeスクール生の立場で知ることができたのは、本当に掛け替えのない体験だったのです。
 
え、生の出会いなんてスクーリングで体験したじゃないかって?
 
・・・あれは悪夢だったからノーカウントで。
 
次回はeスクールでなにかと取りざたされるキーワード「有名人」について紐解いていきます。
 
 
 
 
【注】
※1:2019年現在、「Project Runway」のメンター役にはC.Sirianoが就いている。一方Tim Gunnは2020年現在、同系統の別番組「Making The Cut」のメンター役に就任している
 
※2:学生がホームルーム参加者の名簿を見ることはできませんでした。少なくとも2011年当時は。
 
【参考】
教育コーチについては以下のページが詳しいので、興味ある方はご一読ください。
早稲田大学アカデミックソリューション:通信課程を支える「教育コーチ」の育成・管理をはじめ、業務全般請け負います
 
 
もう大学名も出してしまった・・・