いーすく! #06 有名人!

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舞台は整いました。
 
徐々にざわめき出す館内。重々しい赤の緞帳の向こうには満場のお客様が待っているようです。監督、スタッフ、役者仲間、マネージャーや事務所のみんな、製作に携わったすべての関係者の万感の思いが充満する映画の封切り舞台挨拶の舞台袖で、その人は思い出してしまいました。
 
中間レポート、まだ出してない。
 

#6 有名人!

 
隙あらば自分語りで申し訳ないのですが、銀幕だのスポットライトだのといった目映い世界とは別の惑星に居住している筆者でも、エキストラとして映画撮影の現場に立ち入ったことがあります。具体的に言うとレインボーブリッジを封鎖云々な映画のシリーズ三作目で、署を出てくる主要登場人物を一目見ようと署の前に群がる人々の一員、というエキストラで参加しました。確かそのシリーズのファン向けに事前に募集をかけていて、家族が応募したら当たっちゃったとか、そういう話だったと思います。
 
また更に自分の経験談で大変恐縮ですが、生涯で一度だけ、お台場のテレビ局の音楽番組の観覧希望に当選し、スタジオ収録を間近で見たことがあります。収録は新曲の演奏場面で、ライブハウスのように観客がぎゅう詰めにされた状態でひたすら盛り上がっているという、あの中のモブです。これもアーティストのファンクラブで観覧募集があって、たまたま当選したということだったと思います。
 
で、映画でもスタジオ収録でも、痛感したことはただ一つでした。長い。とにかく長い。しかも待たされた場所がとんでもないというのも共通していました。
 
映画の方は未完成のビルの一フロア、灯りもなく、かろうじて石油ストーブが数台あるという待機場所でした。あまりのことに、もう撮影が始まっているのかな?と勘違いするほどでした。確かに映画撮影でエキストラの詰所が映り込むのは不都合ですし、別の場所にエキストラを囲うための小屋を建てる予算を確保するのももったいないです。そのためこの状況に不満はありませんでしたが、二度は経験しなくていいかな、とも思いました。
 
対してスタジオ収録は、さすがに詰所は屋内でした。しかしそこは御影石で囲まれたよくあるエントランス空間で、しかもそこでひたすら(いつ呼ばれるか分からない状態で)床に直に座らされるという、これまたエキストラらしい扱いでした。せめて部屋か、部屋でないならイスが欲しかったところです。いざ本番となったとき、下半身はガタガタでした。
 
そして映画でもスタジオでも、軽く2時間は何もない時間がありました。とにかく映画もテレビも、待つ、待つ、待つ。さすがに役者さんは設えの良い前室で待っているのだと思いますが、待つという意味では同じでしょう。役者は待つのが仕事と聞いたことがありますが、これは慣用表現じゃなくてそのままなんだなと思いました。
 

eスクールに向いている職業(銀幕スターの場合)

 
さて、このコラムはあくまでeスクールに関するよしなしごとを書き連ねていくものですので、そろそろ本題に入らなければなりません。ここまでeスクール生の生態をお伝えしてきて、eスクールには週の中で結構な時間を割り当てる必要があることは伝わったかと思います。そりゃ大学ですから、少なくともお勉強の時間がガッツリ必要となるのは当たり前です。加えてそれを土日だけでなんとかしようとするとなかなかに大変であるということもお分かりいただけたかと思います。
 
つまり円滑なeスクール生活を送るために、毎日少しずつでもよいので時間を空けられる、あるいはいざとなれば時間を空けられるかは重要です。この条件を満たす職種といえば・・・そう、個人事業主です。農家さん、士業さん、自営業さん、そして芸能人やプロスポーツ選手などがこれにあたります。やっとこれでちょっと伏線を回収できるのですが、実はeスクールは、一見多忙に見えるスターやスポーツ選手でも、やりようによってはやれるタスクであるということを意味します。
 
せっかく映画の現場について書き連ねたこともありますので、ではここで「芸能人eスクール生が映画ロケで長期間自宅を離れる場合」を想定して、仕事と受講をいかに両立できるかをシミュレートしてみたいと思います。
 
1日目(月曜日:晴)
朝、のぞみ号で関西に。ロケ地に向かう。新幹線の車中では受講がむずかしいので、本読みにふける。富士山を眺めたくらいのところで寝てしまった。駅に着く前にマネージャーに起こされ、ロケ地までバンで移動。自然が綺麗だけど、結構な山奥。夜に映画スタッフが集まってのミーティングと頑張りましょうの乾杯。ホテルに戻って本読みと劇中での演奏の確認。
2日目(火曜日:曇)
この日は早朝から外でのロケ・・・だったのだけれど、天候が監督の考えと違うのでこの日は撮らないことに。気を取り直して午後の撮影に備える。ところが午後から急に曇り出したので、午後の撮影も後回しに。監督は夕焼けの色を欲しがっているから仕方がない。このロケは長くなりそう。夜の撮影はなんとか撮り終えて、ホテルに戻ったのは深夜。クタクタ。
3日目(水曜日:雨)
この日は早い段階で私は一日バラすことが決まったので、臨床心理学論とバリアフリー論、あと生物学の受講を済ませる。3科目も見ると目がカラカラになるのをどうにかしたい。夜になって急に現場に行くことになった。最終日に回す予定だった早朝のシーンを明日撮ることに決まったようだ。たぶん今夜は寝られない。
4日目(木曜日:晴)
早朝のカットは幻想的なものになった。徹夜した甲斐があった。やれやれあとは昼の場面だけ・・・と思っていたら、マネージャーから「一旦東京に戻ります」との報せ。監督は「明日また撮りたいから残って欲しい」と当然のご主張。監督、頑張って。でも結局「明日の朝にはここ(現場)に戻しますので!」というマネージャーの約束が決定打となって、東京に戻ることに。マネージャー、いつか殺してやる。午後、タクシーで空港に向かい、夕方東京へ。週刊誌の取材と撮影だった。深夜、大阪にトンボ返り。そのままタクシーで撮影現場に。 
5日目(金曜日:曇)
タクシーの中でだいぶ寝たからよかったけれど、昼からの撮影はまたもリスケ。他の撮影も押しているのと、川の水がまだ濁ってるからって。川の水の濁りとか昨日の段階で分かったんじゃ・・・と思ったけれど、私が言っても仕方がない。そして今日が金曜日であることを、ホテルに戻る最中で思い出した。ヤバい、あと4科目ある。今日で終えないと・・・ 
6日目(土曜日:晴)
結局疲れと役の作り込みで1科目しか受講できず朝を迎えた。でもこの日の撮影はここに来てから一番順調で、助監督もだいたい4分の3は撮れたと言っていた。ただ現場にはインターネット回線が来ていないので、この待ち時間で受講できなかったのは痛い。気を取り直してファンサイト用の写真などを撮ってみる。夜、ホテルで残り3科目を見られるだけ見る。
7日目(日曜日:晴)
結局1科目を残してしまったけれど、撮影は順調に進んだ。次は冬、雪が積もる頃にまた来ることになるようだけれど、とても綺麗な作品に仕上がると思う。のぞみ号で東京に戻り、自宅に戻ったのは午後10時。あと2時間で1科目・・・いける!やってみせる!
 
こんな感じで、合間に映画撮影とマネージャーのやらかしによる右往左往が入っても、1週間のノルマである受講(7科目)をやりきることが十分にできることが分かります。決まった曜日や時間が空けられるのではなく、どこが空くかは分からなくてもどこかは空く(空けられる)という仕事の人でもできるわけですから、eスクールはその気次第で誰でもやれるんじゃないでしょうか。
 

eスクールに向いている職業(サッカー選手の場合)

 
さて、eスクールという言葉を毎年取り上げる媒体にJリーグがあります。実はJリーグとW大eスクールは協定を結んでおり、毎年2~3名の若手Jリーガーをeスクールに受験させ、合格者はプレスリリースで発表するという蜜月ぶりです。
 
Jリーグが協定を結んでまで選手をeスクールに通わせる理由は、セカンドキャリアのためとされています。今や花形職業のひとつとなったプロサッカー選手でも、現役とされる年数は世間一般の職業より短く、そもそも成功を収められる保証はありません。残念ながらプロ選手として大成しなかった場合、手持ちの資格や学歴の有無がセカンドキャリアのスタートラインを大きく変えることは想像に難くありません。
 
つまりJリーガーの何%かは、密かに学生を続けながら試合に出ているということになります。ということは週末の公式戦において、当該週の受講や課題を終えてスッキリしている選手もいれば、残念ながら受講を残してしまった危険水域の選手も混じっていることになります。Jリーグではお馴染みのゲーフラ(ゲームフラッグ)でも、ご贔屓の選手がeスクール生であるなら「○○がんばれ」のような単純なものではなく「レポート提出済ませたか?」「藤沢先生を怒らすな」「早くグループワークに参加しろ」など、受講に関する一言にするとダゾーンも面白がって映してくれる・・・かもしれません。
 
ちなみにインターネット回線があれば、日本へのサーバーアクセスが禁止されている国ではない外国でも受講が可能であり、受講週の切れ目も同じタイミング(日本時間月曜午前5時)となります。そのためeスクール在学中のJリーガーが欧州移籍を果たしても、在学、受講ともに可能です。世界の何処にいても、インターネットが繋がればグループワークに参加してください。
 
ただ風の噂ですが、彼らの卒業率は必ずしも高くないとされています。確かに職場が厳しい勝負の世界ですから、続けられないもっともな理由もたくさんあることでしょう。ただ、せっかくなのでもう少しがんばってみては?とも思わずにいられません。どうかサポーターの皆さま。もしも応援する選手がeスクール生である場合、サッカーの成績と共に学業の成績も上げるような愛あるチャントや喝を与えていただければ、当人もなにくそと思って頑張ってくれる・・・なんてことがあるといいななんて。
 

eスクール生がふと我に返る瞬間

 
しかしどんな職業であるにせよ、eスクール生は常に落単を恐れ、課題の提出期限に敏感になっています。そしてその切迫感は常に意識されている訳ではなく、突然思い出してしまうものです。大事なお客様との商談中や大切な彼とのデートの最中でも、いきなり脳裏に浮かぶのは未提出を示す薄紫色の「レポート提出」カラム。不思議ですよね。あと48時間ある、と思っていたはずなのに、数時間過ぎただけで「あと1日しかないじゃん」と思えて急に焦るのは。
 
人気商売の人に対して、そうではない人たちはなにかと品のない詮索をしがちです。アイドルにだって、実は男関係が派手なんじゃないかとか、思うのは自由ですがツイートしたりすると、よせばいいのにエゴサした当人が傷を負うという事態も起こったりします。派手じゃない!一途!と憤っても言い返せないのが更につらいところです。しかしこの提出期限フラッシュバックについては、詮索するまでもありません。ほぼ全員苦しんでいます。それが檜舞台、舞台挨拶の直前になんて襲ってきたら・・・
 
有名人eスクール生を見かけたら、そんな視点で眺めていると、多少しどろもどろになっていたり、集中力が切れてるんじゃないか?と思ったりしても、ああそういうことなんだなと笑って許してあげてほしいものです。
 
次回はいよいよ「ゼミ」について書いてみます・・・
 
 
 
 
え?そうじゃない?
 
もうちょっとこう、掛け値無しのスーパースターがいるんじゃないのか?ですって?
 
いえ、なんのことかわかりませんね。わかりませんが・・・
 
いえ、わかりますよ。わかります。eスクールには、オリンピックで金メダルを連続で取ってしまう不世出のスポーツ選手が在籍している可能性だってあるわけです。しかし過去ですね、ネット住民を怒らせて燃やされた事例とか多数あるわけで、非常に怖いわけですよ。
 
怒りません?怒りませんね?これはフィクションですよ?無理をしてますからね?
 
で、では。そういう方が所属していたとして、その人にどのような形でアプローチできるか、を、ちょっと想像してみることにしましょうか。
 
繰り返しますがフィクションですよ?お願いしますよ?
 

あの人にアプローチするために

 
巣鴨さん(仮名)はαコース2年目を迎えたレベルAのeスクール生です。元々大卒の資格を有していましたが、臨床心理士を目指すために改めてeスクールで学んでいます。そのため人間科学部の中にある健康福祉科学科に設けられていた科目を重点的に履修していましたが、たまには他の学科の科目も覗いてみたくなり、別学科に設置されている藤沢先生の「環境とデザイン(仮名)」を履修することに決めたのでした。
 
たいていの場合、科目初回のBBSでは履修生の自己紹介が行われる傾向にあります。巣鴨さんはそこで、あの人の名前を見つけます。それは巣鴨さんが密かに追っかけをしている、あのプロスポーツ選手そのものの名前でした。
 
これは・・・夢?
 
文字だけですので表情までは分からずとも、その書きぶりはあの人の人となりが浮かび上がってくるかのような、優しくそれでいて自信に満ちあふれたものでした。こんなことがあるなんて!
 
これはぜひ、お近づきにならなくては・・・
 
待って。落ち着くのよトゲ子(仮名)。初回のBBSの自己紹介でいきなりがっついたらそれこそ驚かせてしまって、以後全くBBSに参加してくれなくなるかもしれない。それどころか、レスをつけたとしたらそれはクラスの他のメンバーにも筒抜けなのだから、「巣鴨さんが原因であの人は出てこなくなった」というストーリーが出来上がってしまうわ。
 
しかもここはeスクールの科目。変に科目とは関係のないことを書き込んでしまったら、自己紹介の動画で見るからに不機嫌そうな顔をしてる桐生コーチ(仮名)が怒り出すかもしれない。絶対そうよ。でもコーチに怒られるだけならまだしも、担当の藤沢先生(仮名)にも怒られたら本当に立つ瀬がない。だいたい藤沢先生は「分かりやすくて熱い先生」って評判だし、有名人か一般人かで学生への態度を変える、なんてことは絶対になさそうな雰囲気だから、変な目立ち方したらそれこそ大変なことになるわ。
 
こんな機会は二度とないかもしれないけれど、あの人の前で落単は嫌。落単以上に、迷惑をかけるのがもっと嫌。
 
分かったわ。これは罠よ。まずはあの人には絡まない。
 
けれどあの人に認識してもらいたい。
 
そのためには・・・自己紹介ね。自己紹介をそれとなく目立たせるのよ。
 
藤沢先生 桐生コーチ 受講生の皆様
初めまして。福祉科の巣鴨と申します。
「環境とデザイン(仮名)」を受講したきっかけは、建築物、特にアリーナのような大きな会場の環境に興味を持ったからです。
特に代々木のアリーナは、不思議な形をしているのに環境とも調和していて、通るたびに不思議だなと感じています。
好きな季節は冬。好きな歴史的人物は安倍晴明。趣味はぬいぐるみを集めることです。
よろしくお願いいたします。
 
・・・我ながらうまく溶け込ませられたんじゃないかしら。え、レスがついたメールがもう来たわ。まさか・・・まさかあの人から?!
 
巣鴨さん
桐生です。
代々木のアリーナとは、代々木体育館でしょうか。私も丹下健三作品の中では好きな部類です。
同時期に建設された東京カテドラルはご存じですか?ぜひご覧になって、感想聞かせてください。
 
コーチかよ。そもそも誰だよ丹下健三って。
 
・・・こんな感じで巣鴨さん(仮名)の浮ついた半期が始まりました。結論から言って、ここでがっつかなかったのはかなり正しい選択です。有名人がいようがいまいが、教育の場を毀損するような行為は正当化されません。それとコーチは大切にしてあげてください。
 

あの人の力になるために

 
学期開始から数週間。巣鴨さん(仮名)は「環境とデザイン(仮名)」の簡単そうに見えて奥が深い建築計画の世界に引き込まれていきます。それはそれでよかったなと思う反面、やはりクラスに同居するあの人のことが頭から離れることもありません。
 
しかし表立って何らかの助太刀をすることは難しく、なによりあの人はあまりBBSに顔を出さなくなりました。BBSへの書き込みが成績評定に大きな影響を及ぼさない場合、有名人でなくとも投稿頻度が下がるのは仕方のないことです。でも、忙しいあの人のことです。もしかしたら、この科目をあきらめてしまったのではないか?
 
そうこうしているうちに、中間レポートが出題されました。
 
これよ。今よトゲ子(自分)。あの人のレポートを助太刀するの。もちろん、そのまま私が作ったレポートを送りつけるのはおかしいし、それを出されたら大変なことになるわ。第一、そんなことをしてあの人が受け取るはずがないわ。だけれどヒントとか、レポートを書くための材料なら・・・
 
そうよ、ファンレターよ。ファンレター経由で情報を植え付けていくのよ!
 
グランプリシリーズお疲れさまです。過去最高のプログラム!
感動はしない!ちゃんとお姿観られなくなるから!と心に決めていたのに、感動して泣いてしまいました。
もちろん、NHK杯も観に行きます!
今年は代々木体育館での開催ですね。代々木体育館は、丹下健三という人が設計したのだそうです。
カナダやヨーロッパで最近建設された現代的なアリーナとモダニズム建築の代々木体育館で、人との距離感や客席からの視線の差異を考えてみてはいかがでしょうか。
これからも応援しています。風邪ひかないでね!
 
場外乱闘を挑んだ巣鴨さんですが、このように互いの学びを深めるためにディスカッションを続けることは、有名人であろうとなかろうとむしろBBSで取り組んで何ら問題ありません。むしろリアルの世界において唐突に「レポートのテーマにうってつけだな」とか「ファイルの拡張子指定なかったよね?」などと口走ると、単純に不安定な人と思われてしまうのでできれば避けましょう。
 
それに加えて、コーチが食いついてきたらぜひ食い下がってみて情報を引き出してください。コーチなんて、叩けば叩くほどコインを吐き出すマリオワールドのブロックのようなものですから。
 

あの人にいつ届いてもいいように

 
講義終盤。巣鴨さん(仮名)の恋慕空しく、特に進展がないまま淡々と期末レポートが提示され、学期は終わろうとしていました。しかし巣鴨さんはもはや不幸ではありませんでした。
 

都市の諸相を読み解くためには、都市の景観をどのような要素に分類するかの視座をどれだけ多く獲得しているかが前提となると考えます。著名なものとしてはアレグザンダーのパタン・ランゲージや、ケヴィン・リンチ提唱の「都市のイメージを構成する要素」があります。特に後者の5要素「パス」「エッジ」「ランドマーク」「ノード」「ディストリクト」を取り上げると・・・

 
巣鴨さんはもうほとんど可能性はないと考えながら、しかしいつその時が来ても良いように、科目の知識を確固たるものとしていきました。環境を語る上で不可欠な考え方の枠組み(フレーム)や計画論の基礎、環境デザインの分析手法を学び、渾身の期末レポートが提出されました。講義の最終回。この回のBBSは多くの科目において、学生から先生や受講生に向けてお別れの挨拶と講義の感想が綴られます。巣鴨さんはラストチャンスとばかりに、あの人への思いをしたためようと思い立ちます。
 
藤沢先生 桐生コーチ 受講生の皆様
福祉科の巣鴨です。
最後に一言だけ、クラスメートへの私信を書かせてください。
お名前をお見かけしたときからずっと、同じクラスの一員として頑張ってきました。
何を聞かれてもいいように、何を困っていても答えられるようにと思って、一生懸命勉強しました。
けれど答えるのはいつも桐生コーチばかりで、満足にやりとりができず
・・・ここまで書いて、巣鴨さんは我に返りました。なんだかこれでは、あの人のためにだけ頑張ったみたいじゃないの。それであの人は喜ぶかしら。
 
思いがけない邂逅で舞い上がった心の動きに任せて、巣鴨さんはだいぶ高いところに来たのでした。しかし本当は、モチベーションこそあの人由来とはいえ、紛れもなく自分の足で登っていたのです。そして辿り着いたこの場所から、最後の最後で「あなたのために」などと言ってしまえば、それまで積み上げてきたものすら崩れてしまうような、そんな気がしたのです。
 
巣鴨さんは最終回のBBSでの挨拶を一から書き直し、先生とコーチに宛てたきわめて簡潔な文章で終わりにしました。
 
巣鴨さんとあの人との(この科目においての)繋がりは、永遠に過去のものとなりました。
 
同時に巣鴨さんの足元には、紛れもなく自分で培った「環境とデザイン(仮名)」に関する知識が残されたのです。丹下健三を足蹴にできる巣鴨さんはもういないのです。自分で学び取ったことを自分の一部分として生きていけることがどれほど素晴らしいことか、巣鴨さんは知ってしまったのです。
 
ちなみに、巣鴨さんのこの選択はやはり大正解です。クラスメートが仮にどんな有名人でも憧れの人でも、同じ受講生という立場です。科目の到達目標を達成するという目的以外の言行は慎むのが常道です。例えば、たまたま図書館で閲覧席の隣に有名人が座ったとして、その人の勉強を妨げてはいけないのと同じです。
 
けれどこの成功体験を、あの人が連れてきてくれたという事実を、やっぱりどうしてもあの人に伝えたくて、巣鴨さんはファンレターの筆を執り始めるのでした。
 

有名人、それはいつもあなたのクラスメート

 
何も通信に限ったことではありませんが、成長において必要なのはライバルと言われます。しかし単にライバルというと、反目しあう仲であるとか嫌いな人でなければならないとか、様々なマイナス要素を併せ呑まなければならないようにも考えてしまいます。筆者はそう思いません。それこそ有名人だって、巣鴨さんが遭遇したあの人だって「ライバル」であり、仲間です。
 
eスクールはこの点、顔が見えないという部分が良い方向に作用すると感じます。もっと言うと、有名人でも学生としては本名で登録するでしょうから、実はあの有名人(本名非公開、芸名が有名)が本名で潜伏している、という可能性もゼロではないのです。隣は何をする人ぞ、ではなく、自分はいつも有名人とクラスメートである(かもしれない)。そう思うと、いつ頼られても良いように準備しておかなくちゃ、ですよ。
 
 
 
いや、だって、マジな話、筆者は在学中、有名人に全く遭遇したことないんですよ。勘弁してくださいよ。
 
あ、ちなみに我が家の犬の名前は「ゆず」といいます。偶然ですよ。