いーすく! #07 ゼミ!

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街路樹がさわぐ音の中、クリスマスツリーの点灯式がそこかしこで始まる頃、筆者のeスクールライフは大きな岐路に立っていました。2012年秋、ゼミ選択です。
 

#7 ゼミ!

 
eスクールにおいて「~年次」が重視されないことは序盤でお伝えしました。その代わりに存在している階層が「レベル」で、4年コース(βコース、レベル1~4)の場合は「レベル3」への進級時、編入コース(αコース、レベルA~C)の場合は「レベルB」への進級時にゼミへの配属が行われます。要はα・βどちらのコースも、ゼミには卒業までの2レベル(最低2年間)を在籍することになります。
 
さて、このコラムでは大学という組織を体験したことのない方にも分かりやすく理解してもらうために、人によってはまどろっこしいと感じるまでに説明してきました。よーく分かってるよという方は随所で読み飛ばしていただいて構いません。まあだいたい分かっている人は、このコラム自体読む価値がないかもしれませんが。
 

そもそも「ゼミ」って何ぞや

 
「ゼミ」とは、大学に所属する教員の研究室内で行われる「演習」、または「研究室」そのものを表す言葉です。語源はゼミナール(seminar=演習、研究室)というドイツ語で、気取っているだけです。減るもんじゃないので、ここは気取らせてあげてください。
 
ゼミはボスである先生(教員)を頂点とし、助手や大学院生、学部生(1学年で10名、2学年合計でも20名に満たない程度)で構成される、極めて単純に言うと少人数学級です。ただしこれはW大人間科学部での構成であり、他大学や他学部では異なるかもしれません。本コラムでは以降、eスクール(人間科学部)で用いられる「ゼミ」の意味に沿って説明していきます。
 

ゼミに配属される、とは?

 
科目名での「演習」を履修することと同じです。しかしゼミはほとんどの学生のキャンパスライフにおいて中心的存在となるため、「ゼミの配属」とは自ずと「専門科目を履修した」以上の意味を内包しています。多くのゼミの場合、「演習」時間以外でもゼミメンバーと時間を共有する様々な機会が設けられるからです。それだけにゼミの選択は、学生生活(後半戦)の充実を占う上で重要です。科目は担当教員のやり方に反目して受講を放棄しても単位を落とすだけですが、ゼミで担当教員と同じような関係となると、卒業や進級の見通しも危ういものとなります。
 

ゼミに配属されるための条件

 
eスクールでは、次の春学期にレベル3またはレベルBに進級することが予想される学生にゼミ選択のガイドがなされます。手続きの詳細については、メールなどをチェックしていれば大丈夫です。ただし秋学期の受講結果によって昇級までの単位数が足りない、あるいは必修科目の単位を取得していないなどのボーンヘッドが発生した場合、ゼミ配属も来期以降に持ち越しとなります。そのため手続きについて過度に心配する必要はないものの、進級の要件は自らで事前に確認しておくことが重要です。
 

ゼミで取り組むこと

 
ゼミでは前述の「演習」のほか、「卒業研究」を行います。これが世に言う「卒業論文」という一大プロジェクトです。言わばゼミで行うことは卒業論文(以降「卒論」と略記)をしたためることであり、1年目はそのための準備期間(演習)・・・と捉えてもあながち間違いではありません。
 
ちなみに他大学や他学部によっては卒論の位置づけが異なっていたり、そもそもゼミに配属されなくても卒論を書ける、そもそも卒論なんて書かない(!)というケースもあるようです。eスクールのあるW大…もういいや、早稲田大学人間科学部の場合、書かないでよい、ということはあり得ません。それどころか、卒業研究を行う学生は学部内のゼミに配属され、かつ所属するゼミの教員の十分な指導を経なければなりません。堅苦しいように思えますが、卒論の品質を担保するにはここまでしなければならないのだと思われます。大相撲でいうところの、相撲部屋に所属しなければ本場所の土俵に上がれないというのと(たぶん)同じです。とにかく、この大学この学部ではそういうもんだ、ということで納得してください。
 

ゼミ選択のはじまり

 
ゼミに配属されるタイミングは毎年の春学期開始時の一度のみで、よってゼミ選択はその前年度の秋学期に行われます。ゼミを選択するに際してまず気をつけたいのは、①どんなゼミがあるか ②希望する先生やゼミが募集をかけているか の2点です。
 
①については第5回で示した通り、ほとんどの教員が自分のゼミで取り扱っている領域をそのまま専門科目としていることから、自ずと分かってきます。ゼミ選択の段階で「自分はどの分野が合っているんだろう」などと今更ながら考え始めていたら、一周回って考えすぎか一周も回っていないかのどちらかです。
 
それより思わぬ落とし穴が②で、専門科目を開講している教員すべてがゼミを持っている、または募集している訳ではないことに注意が必要です。○○先生の授業が好きなのでゼミ選択しようとしたら△△大学に研究室がある非常勤講師の先生だった!とか、□□先生は来年ご退官で学生を募集していなかった・・・という洒落にならない話も、確認ミスによっては生じてしまいます。とは言っても人間科学部の場合、カバーする学問領域が広いこともあって、近接する領域の先生も多く在籍しています。希望の先生のゼミに入れないからといって、早まってあきらめる必要はありません。
 

ゼミ選択のための準備

 
ゼミへの配属は秋学期の終盤に学生側から希望を出すことができます。大学側が設定した定員に希望者数が満たない(あるいは同数の)場合、ゼミへの配属が決定します。しかし定員以上の希望者数があった場合は、教員が選抜することになっています。人間科学部の場合、ゼミの定員は少なく設定されています。指導機会を確保するために、これは致し方のないところです。そのため人気のあるゼミに数十人の同期が配属、ということは起こりません。
 
かような事情から、多くの教員はゼミ選択の学生に対して選抜前提のレギュレーションを提示しています。鉄板なのは「配属希望を出す前に必ず面談を行う」という条件です。それゆえ人気のゼミでは、面談を経ないで配属希望を出しても希望が通る可能性は低いといえます。他にもゼミごとに様々な条件を提示しているようですが、一大要件が「面談」です。筆者が配属希望を出そうと考えた3つのゼミも、すべて事前面談を求めていました。
 
これは当然というか、2年間つきっきりで指導することになる学生について、何の情報もないよりはあった方がそりゃ楽でしょ、という事情が挙げられます。もちろん面談したからといって配属内定が出ることはありませんが、面談が選抜の材料となることは火を見るよりも明らかです。そのためゼミ選択の学生にとってのこの数ヶ月は、就職活動とまではいかないものの、それなりにスリリングです。
 

いざ、ゼミ面談マラソンへ

 
さて、筆者は前述の通り、同じ領域の3つのゼミに面談希望のアポを取り、面談を行いました。もちろん実際に赴いて、です。eスクール生はSkypeなどでの面談も認められるようですが、実際にお目に掛かった方が印象もいいかなと思って。
 
・面談その1:藤沢先生
ホームルーム担任という奇縁と、担当科目が1年目春学期受講科目の中に入るほど興味深かったこともあり、藤沢先生のゼミは筆者にとって本命でした。ゼミが用意しているウェブサイトで面談の要項を確認し、所沢キャンパスに赴いたのは11月上旬でした。さらっと書いてしまいましたが、あの夏のソフトボールスクーリング以来でしょうか、あのときから全然縮まっていない所要時間の旅程を経て、やってきました。また来ちゃった。
 
藤沢先生が指定した面談場所は藤沢先生の研究室でした。この大学の場合、部屋を意味する「研究室」とは先生個人の個室、書院を意味します。当人の許可なく立ち入ることが出来ない、本棚や机といった家具のレイアウトにも当人の人となりが反映されている(かもしれない)聖域です。
 
面談時の藤沢先生は実に真面目、いつもの講義より真面目なんじゃないかといえるほど真面目でした。部屋も思いのほか整然としていて、とてもインパクト重視の先生の部屋とは思えません。どうしたんですかお酒入ってないときちんとしゃべれるじゃないですか。内心そう思いつつ、面談に臨むための気持ちを軽く持ちすぎたと少し反省したことを覚えています。
 
面談の内容は一応は試験に準ずるかなと思い、あまり具体的に述べないことにします。時間はあっという間に過ぎました。一つだけ、藤沢先生の発言で印象に残った言葉だけは書いておこうと思いますが、筆者にとってはかなり意外な一言でした。
 
「そのテーマなら、上野先生の方がいいんじゃない?」
 
・面談その2:上野先生
新宿区西早稲田。早稲田大学の別の学部が居を構えるキャンパスの一角にあるコーヒーチェーン店のカウンターで、コーヒーか紅茶を飲んでいる姿。それが上野先生を最初に見かけた姿でした。11月中旬、筆者は2件目の面談として上野先生のアポを取り、上野先生が所用を終えた西早稲田で面談となりました。 
 
なにしろ藤沢先生の時とは打って変わってオープンな場所でしたので、全く予想がつかず不安もありました。しかし特に周囲からの視線を感じることもなく、それでいて変に緊張させるような雰囲気でもなかったため、話は結構弾んだように記憶しています。また面談そのものを経験していたこともよかったのかもしれません。
 
話した内容は、例によって詳述しないことにします。一つだけ、時系列的にこちらが後となったこともあって、「藤沢先生から『まさゆめさんのテーマは上野先生がいいよ』と言われました」と正直に告げると、上野先生は微笑みながら「確かにそれは私のテーマですね」と返してくれました。
 
好印象を持ってくれたかな?と思う反面、このゼミに入ったらちょっと大変そうだな、という実感も持ったのでした。
 
・面談その3:武蔵小杉先生
11月下旬、武蔵小杉先生との面談はふたたび所沢キャンパスに赴いて行われました。交通費も時間も結構なことになってきましたが、大切なことですから気にしていられません。武蔵小杉先生が指定した面談場所は「実験室」、これは学部生や大学院生が主に取り仕切っている広めの部屋で、「ゼミ室」とも呼ばれている部屋でした。広めの空間に雑然と置かれた事務机。おお、なんか大学っぽいぞ。
 
面談は複数名で行うグループディスカッション方式でした。例によって細かい内容は伏せたいと思いますが、一つだけ。テーマについて語ったとき、武蔵小杉先生は間髪入れず「上野先生だね、そのテーマは~」と返してきたのでした。うーむ・・・そうなのか。どのゼミでも取り扱っているような気がするけれど・・・
 
ちなみに武蔵小杉先生の風貌はどちらかというと熊的な、ただとても穏やかな熊の雰囲気で、我が子の成長を語る姿は完全にデレデレのお父さん熊でした。その話が面白かったことに端を発し、途中からもはやゼミとは関係のない話で盛り上がったような気がします。これが就活のグループディスカッションなら「場違いに盛り上がった思い出作りグループ」として参加者全員不合格でもおかしくないわけですが、まあでもゼミ面談だし、先生も楽しそうだったし・・・
 
以上、足かけ3週間。所沢キャンパス2往復という予定外の交通費を投じたゼミ面談マラソンは無事完走を果たすことができました。
 

結局、どこにする?

 
面談というプロセスがなければ、筆者はおそらく藤沢ゼミ一択であったと思います。それで配属が叶ったかは希望者数にもよるのでなんともいえませんが、面談を経て余計悩んでしまったというのが正直なところでした。
 
決め手ということでは、藤沢先生が薦める?上野先生が一番適合しているのかもしれません。しかし筆者は藤沢先生が良いのです。ただ「あんまり合わないよ」と言っているかもしれない先生のところにそれでも配属希望を出し、配属は叶ったけれど蓋を開けたらやたら厳しい指導を受ける毎日になってしまった・・・となれば、やめときゃよかったトホホと心が折れるかもしれません。
 
その点、優しい熊さんである武蔵小杉先生のゼミはなんとなく緩い雰囲気で、精神的なことを考えればこちらも捨てがたい選択肢です。困ったら茶飲み話で盛り上がれそうだし。とはいいつつ、やはり適合していないかもしれないゼミを「雰囲気」だけで選ぶのも少し気が引けます。そもそもこの緩さは、よくある体育会系の部活にありがちな罠かもしれません。全然優しくなかったよトホホ、なんてことだって・・・
 
そうなるとやはり上野ゼミが一番手となってきます。しかし実はこちらも難問がありました。それは上野先生が3つのゼミで唯一「スクーリングは必須です」と表明していたことです。理由は十分な指導機会の確保という当然のものでしたが、通うということになれば色々と話が変わってきます。遠いところは何度通っても遠いよトホホ、となること請け合いです。
 
更に考えなければいけないのが希望者多数による選抜です。選抜によって落選した場合、学生は定員に空きのあるゼミに限定された選択希望(二次募集)を強いられます。言うまでもなく、最初の募集で定員が充足してしまったゼミの門戸は閉じられるわけです。当然、希望する3ゼミが二次募集に残っている保証はありません。
 
そのためこの時期は入学年度ほどではないものの、ゼミ選択を行う同期生がどのゼミを希望するかについての情報収集を真面目に行っていました。その結果、藤沢ゼミは選抜となるかもしれない、という気配がありました。むむ、厳しいかもしれないな。
 
しかし思い悩んでも、実際のところは分かりません。いずれにせよ避けたいのは、せっかく面談した3つのゼミすべてに入ることが叶わず、現時点で予想していなかったゼミに入るしかなくなることです。とはいっても希望は出さなければ絶対に通らないわけで・・・
 
月日は流れ、年明けを迎え、いよいよ配属希望を出すときが来ました。
 
筆者が第一希望としたのは上野ゼミでした。
 
そして幸いにも落とされることはなく、無事に上野ゼミへの配属が決まりました。
 
合わせて、今後はスクーリングが定期的に発生するという運命も決まりました。
 

通信とは

 
eスクールという方式の大学の紹介を続けて7回目。ここまで通信制というものの特色や対処法について駄文を連ねてきましたが、いよいよその前提が崩壊しようとしています。何が「いーすく!」だ!「いー」はどこ行ったんだよ!という話になってきますよね。面目ないです。いやでもファミレスだってメインだけ見てやっす!と思って気をよくしてセット注文したら結構良い値段になっちゃうなんて日常茶飯事じゃないですか。無痛治療と言っても全く痛くない歯の治療なんてないんですよ。そもそも虫歯が痛いんだから。そういうもんだと思ってここはどうかひとつ。
 
しかし先述した「スクーリング(対面)でなければ卒論指導は難しい」という上野先生の方針には説得力があります。なにより、きちんと指導してもらえるという確約がもらえたことは、日々孤独感に苛まれる通信生としては望外の僥倖でもありました。最終的には研究テーマの適合度に加えて丁寧な指導機会が与えられる可能性にかけて、第一希望の決断を下したのでした。これが合ってるか間違っているかはわかりませんが、それは時間が決めてくれることでしょう。
 
 
次回、ゼミ選択まで行かなかったけど面白かった科目について書いてみます。