いんせい!! #23 OBOG!!

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桜の花びらなどとうに散って久しい時期、筆者は11期の面々が集まる居酒屋を目指していました。
 

#23 OBOG!!

 
一度でも足を踏み入れてしまった学生や院生はすべて、上野ゼミでは卒業・修了後に「OBOG(Old Boy, Old Girl)」とみなされます。昨今のLGBTQを意識してしまうとこの呼び名も配慮がない、などと言われてしまいそうですが、単に「OB」とだけ称している事例が多いところに「OG」をつけているので、何卒ご勘弁願いたいです。ちなみに上野ゼミでは、個人の機微に触れる情報は時代を問わず厳重に取り扱っていますのでご安心ください。上野ゼミはカミングアウトは自由ですし、アウティングや夜這いには厳正に対処します。
 
そして他の多くのゼミと同様、上野ゼミでも毎年OBOG会が企画されています。仮に1期10名としますと、eスクール生や助手などを合わせて150名以上がOBOGリストに入っています。OBOG会では毎年その中の20名くらいが顔を出し、上野先生や後輩との親睦を深めています。筆者も在学中一度だけですが、幹事を務めました。
 
さて、なかなかこういう時に難しい立ち位置となるのが社会人学生の宿命です。基本的には「期=年度」ですから、期が浅い人は先輩であり年上の可能性が相当に高くなります。年功序列な儒教的思想が希薄になってきた昨今の日本社会でも、年下に邪険に扱われてなお気持ちがよい年上は少数派です。結果、期の若いOBOGの立ち位置は後期の学生らが決して及ばないものとなります。
 
そういう規範の中で、扱いに困ってしまうのが筆者のような社会人学生です。上野ゼミの開設年=1期誕生年度は確か2005年で、2020年換算しますと年齢が30代中盤の人たちといえます。対して筆者は氷河期世代の端くれのため、まあもう四捨五入する必要がなくなってくるレベルのアラフォーです。要は1期さんたちよりちょっとだけ上で、しかし上野先生から見れば学生とみなせる程度には世代の離れた年下なわけです。もちろんこのような場合でも、基本的には「期」に従うべきです。社会人学生さんの中にはもっと上、上野先生より上という方もいらっしゃいますがそれでも同じです。所属している学年が与えられている役割をこなし、それ以上背伸びする必要もないのです。当然ながら年下の先生(教員)がいても、教員として敬うべきです。
 
でもですね、筆者はやはりその辺りがまだ昭和なのかもしれないのですが、逆の立場(筆者が年下、後輩が年上)で「ところで最近どんな感じ?ちゃんとゼミ回せてる?俺ん時はそんなに緩くなかったなー」とか、馴れ馴れしく年上さんに話せないですって。年下にもちゃんと話せてないのに。
 
以上の流れからオーパーツと化するしかない筆者という存在は、どうにも扱いづらいものとなるのでした。なにしろ自分が扱いづらいのですから、周りの人にはさらに面倒じゃないかといつも不安でした。当座の解決策として、筆者は「存在感を消して学部生に潜伏する」という強引な作戦で乗り切ることにしました。風格のなさだけは妙に自信がありますし、隣に小田原くん(13期)のような風格ある人か三河島さん(12期)のように目力のある女子を配置すれば磐石です。
 
そんなこんなで昭和生まれであるとかは極力示さないようにしながら、最下級生的立場で参加するというのは割と楽しいものでした。なにしろ最下級生ですからね、先輩(1期とか2期とか)が座ってらっしゃるテーブルにはこちらから馳せ参じなければなりませんよね。加えてある程度こちらのことを知っていただかなければなりませんので、不慣れなテーブルトークでもこちらから切り出さねば・・・
 
まさゆめ「先輩の皆さん、ご卒業のあとも仲が良さそうですね!」
 
○期生「違うよ。ここでしか会わない」
 
まさゆめ「あっ、そうなんですね・・・」
 
○期生「・・・・・・」
 
まさゆめ「・・・・・・」
 
クソが、なんだその態度。グラス口につけたまま小声で喋ったっきり目も合わせないでこの野郎。お前同世代やら目上やら取引先の社長にも同じような言い方するんか。と言いたい気持ちを瞬時に堪えて、現役生が溜まる端っこの方に背中を丸めて帰るのでした。これはOBOG会よ。下手な騒動は禁物だわ。しかし背伸びもよくないけど、縮こまるのにも限界があるわけで。正真正銘のOBOGに転生した暁には、諸先輩も煙たがるようなオーパーツ0期生として参加してやるよと強めに決意したのでした。現役生たちよ、知らない先輩から不愉快なことされたらお知らせくださいね。その先輩の目の前で、わしが君たちにいいようにこき使われる姿をバッチリ見せつけてやりましょう。
 

羽ばたいた11期のその後

 
OBOGの繋がりはゼミ単位でも、同期単位でも発生するのが自然です。筆者一押しのゴールデンエイジな11期も、卒業して一ヶ月後の5月某日、東京駅近くの居酒屋でひっそりと近況報告会を行っていました。そしてそこに筆者もゴリ押しで参加させてもらうことになりました。
 
卒業から一ヶ月が経過した彼らの表情は、全然変わっていませんでした。むしろこの顔が揃うと「ゼミの話にしなきゃ」と妙な緊張感が漂ってしまいそうになるくらい、みんなの表情は同じでした。とはいえわずか一ヶ月でも、彼らはもうしっかりと社会人でした。かしこい系男子は手堅い職場に、ふわふわ女子も割とカッチリとした職場に、ポンコツ3も何ら遜色ない職場を射止めていました。筆者からはTAとしてではなく、普通のおっさんとして一つだけお願いしました。どれだけインターバルが空いてもいいので、全員が無理に揃わなくてもよいので、11期で集まる会をこれからも作っていって欲しい。
 
今後彼らは順調にいけば、昇進なり転勤なり結婚なりを果たして、一箇所に集まることはどんどん難しくなっていくでしょう。多少の逆風が吹いたところでそれは変わらないはずです。絆という観点からしても、会社や同じ趣味の人、地域の人や有力者とのつきあいはより強固になり、ゼミなどの過去の絆は意味を失っていきます。でもだからこそ、実は掛け替えのないものなのです。
 
個人的な話ですが、90を過ぎた祖父は元々顔が広く、色々な付き合いを続けていたのですが、最後まで残っているのは学校のクラス会なのです。みんな「もう会えないかもしれないから次はあの世で」などと言いながら、次のクラス会まで元気に過ごすことを目指しているのだそうです。もはやなんの共通項もないけれどよく知っているという繋がりは、どうやら人生の最期まで人を支えうるのです。まあさすがに今からジジババになった時のことを想定するのは無理があるにしても、みんなの素敵な人生を支える絆は一つでも多くあった方が良いに決まってるのですよ。そういう絆を一切持つことが出来なかった昭和おじさんからの、せめてものお願いです。
 
まあもちろんこんなに切々と語ることはしませんでしたが、その願いが通じてか、彼らは以後もスキーやら飲み会やらで集まってくれているようです。また聞くところによると、影の世代、ドライ一辺倒な12期の人たちの方が卒業後もコンスタントに連絡を取り合っているとのことですから、わからないものですね。まあごくたまにで良いので、おっさんもその集いに呼んであげてください。飲み代くらい払ってやりますよ。
 
田端くん「ダメですまさゆめさん、僕らちゃんと払いますんで」
 
大人になったな田端くん。
 
田端くん「でもこの前、会社の設備ぶっ壊しちゃって・・・あはは」
 
ダメじゃないか田端くん。最高ですね。もう会社は君のものです。戦果報告お待ちしてます。
 



(初出:2021/02/02)