いーすく! #02 受講!

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空をずっと眺めていると、いろんな形の雲が見つかります。穏やかに晴れた5月の陽気は、心にたったさざなみをもきれいに鎮めてくれるようです。その気持ちを覚えたまま目を閉じて野山を思い浮かべれば、そこには青々とした草原、風、雑木林。あなたは一週間で何科目受講できますか?
 

#2 受講!

 
支離滅裂な導入になってしまいましたが、これには歴とした理由があります。その説明のために、eスクールのカリキュラムについて詳しく説明しなければなりません。ちょっと細かい話になりますが、がんばって噛み砕くのでついてきてください。大学、ないしは単位制の中学校・高等学校に所属したことのある読者さまであれば、斜め読みでも理解できると思います。
 

単位取得ペースと「レベル」のお話

 
「eスクール」といっても正規(ガチ)の大学のため、4年コースの場合は卒業までの単位が「124」必要であることは前回触れました。となると学生は、いかにして124を達成するかに関心を向けることになります。もしここをおざなりとしてしまうと、やれ単位が足りないだの、なんであのときやっておかなかったんだろうだの、今から学校に隕石を落とせないかなだの、夏休み終盤の小学生のごとく慌てるに決まっています。腐っても社会人経験を携えている社会人学生としては、みすみす奈落の底を覗き見るようなスリルを味わう必要はないわけです。
 
しかし考えるにも、何も目安がないのも事実です。誰でも思いつくことですが、とりあえず124という数字を4等分してみました。
 
1年:32   2年:32   3年:30   4年:30
 
ちょっと不均一ですが、だいたい一年で30ちょっとの単位を取得し続ければ「4年で124」に到達できることが分かります。W大は前期(春/夏学期)と後期(秋/冬学期)の4学期・セメスター制で1年を構成しているので、半分のセメスター(半期)で16単位を取得すれば「4年で124」というペースに乗ることがわかります。半期で16単位。何だか、いけそうな数字です。
 
一方、eスクールには通学制の「○年次」と異なる独自の進級ルール「レベル○」があります。単純には、取得単位数や必修科目の単位取得状況に応じてレベルが上がるというものです。これはeスクールに「4年コースを必ずしも4年で修める必要はない」という理念が存在していることを示しています。
 
そもそも日本の大学はW大に限らず、留年をあまり良しとしない、それどころか留年者とはすなわち落伍者、無能、ウサギが寝てても勝てない亀、といわんばかりに蔑むような風潮があります。しかしeスクールの「レベル」は掟を蹴り破れとばかり、年数の概念は二の次、学習の進捗にのみ着目した制度といえます。留年上等、亀で結構なわけです。
 
お断りしておくと、実際は通学制においても進級のための重要項目は在籍年数より取得単位数の方であるはずです。しかしウサギとして生み育てられてきた子供が多数を占める大学という組織で、亀を蔑む文化が育まれるのは致し方ないのでしょう。ただそうであったとしても、eスクールの在籍年数を通学生のそれと同じように考える人は、はっきりいって知らない人です。eスクールに関する他のすべて忘れてもいいので、これだけは覚えておいてください。
 
といいつつ、想定の段階で5年・6年をかけるというのもたしかにちょっと気が引けます。想定自体はタダですから、ここでは引き続き4年で4つのレベルをきれいに上がっていくことを目指してみます。
 
単位取得ペースの話に戻ります。個々のレベルの進級に必要な単位数について調べると、さきほど想定した「124」の4等分に近い数字が当てはめられていることがわかりました。そして安全(=少し落単する可能性)を考慮し、最終的に半期に取得すべき単位数が見えてきます。
 
「18」もしくは「20」です。
 

単位の基準

 
さて、履修すべき数字の正解は見えてきましたが、ここでもうひとつ、各科目で取得できる単位数をおさらいしておきましょう。
 
簡単です。ほとんどの科目が「2」です。
 
というのも「単位」という基準が大学設置基準第21条(単位)において「一単位の授業科目を四十五時間の学修を必要とする内容をもつて構成すること」「講義及び演習については、十五時間から三十時間までの範囲で大学が定める時間の授業をもつて一単位とする」と記載されているので、議論の余地がありません。この基準を1コマ90分のW大で実際に運用すると「半期=15コマの講義=30時間=2単位!」という等式が導かれることから説明がつきます。あれ、90分で15回だと22.5時k…と変な計算を始めた子は知りすぎた子になってしまうので、他のすべて覚えていてもこれだけは忘れてください。
 
・・・どうやらこの不一致は慣例によるもので、歴史的には講義の時間数よりコマ数が重視されてきたようです*1。そもそも45時間という基準の発端も曖昧なので、ここは突っ込まないであげてください。
 
とにかく、半期15コマで2単位です。さらにいうと「1学期(8コマ)で1単位」です。しかしeスクールにおいて1単位科目は少ないので、今はスルーします。
 
というわけで、いよいよ見えてきました。半期で履修すべき科目数は
 
「9」ないしは「10」 です。
 
9 or 10科目。これは果たして、多いのでしょうか。はたまた少ないのでしょうか。無理を承知で通学制と比較するならば、この数は「少ない」と言えます。一方でeスクールでは一年の取得単位数の上限を「41(レベル1・2の場合)」と定めており、1年で42単位以上(21科目以上)取ることを妨げています。つまりeスクールにおいて「9 or 10」は、上限ギリギリのラインであることが分かります。
 
しかしその制度でも「9 or 10」を阻止するほどではありません。
 
ならば、これは登るべき山道である、と考えるしかありませんね。
 

ガイダンスの御託宣

  
さて、eスクールでは入学時のガイダンス映像にて、上にあげたような履修計画の立案を推奨していました。しかし最も肝心な科目数について、筆者の思考プロセスによって導かれた内容とは異なる説明がありました。ガイダンスを担当した磯子先生(仮名)は、このように語っていました。
 
「せいぜい7、いや6科目がいいところだと思いますよ。8とか9とか、もうたいっへんですよ!」
 
え、それでは4年間で間に合わないじゃないですか!
 
と心の中で突っ込みを入れるも、「レベル」なる独自の進級ルールに思いを馳せ、納得しました。磯子先生も、一つのレベルを1年で急いで上がる必要はないと仰っているのです。これはなにも多めに学費をいただこうというゲスい話ではなく、無理は続かないよ、ということを示しているのだと思われます。
 
ちなみに学費について説明しますと、基本的に半期ごとに同じ額を払う「定額制」な通学制と異なり、eスクールでは履修科目数に応じて学費を算出する「従量制」を採用しています。例えば何らかの事情で半期の履修科目数を抑えた場合、その期は学費も下がることになります。
 
しかし124単位の取得には少なくとも124単位ぶんの科目の履修と授業料の納入が必要となるので、結果的に同じコースで卒業する全eスクール生の学費負担はほぼ同等となります。多く払うとしたら、W大側が在学中に学費を劇的に上げるか、学生が劇的に単位を落としまくるしかありません。落単、それは新しい寄付の形。
 
でも、でもですよ。10科目いけば4年で終われるかもしれないわけですよ。磯子先生の親心はありがたいですが、日本男児、大和撫子なら、見えた坂は登ってナンボなわけですよ。落単だなんて・・・そうならないように頑張ればいいだけじゃないですか!
 

いざ履修!

 
というわけで、筆者は1年目最初の半期からフルスロットルで履修登録を行うことを決意しました。ここまで書いてみて、なぜそんな急いだのか自分でもわからなくなりましたが、おそらく「スローペースで走るなんて気持ちが持たない」という予感もあったからでしょう。
 
さてここに、記念すべき最初の学期の履修科目を披露いたします。教員名と現存する科目の名前は仮名としています。
 
入門統計 松井田先生
外国語(英語)II(必修)クラスごと異なる先生
里山論 渋谷先生
憲法論 韮山先生
建築と人間 上野先生
環境とデザイン 藤沢先生
環境と行動 武蔵小杉先生
緩和医療 倉賀野先生
体育I 吉原先生
メディア論 保土ケ谷先生
 
10科目。ここでは筆者がその時すでに興味を抱いていた領域がかなり網羅されていて、我ながらほれぼれするような見事な陣容です。しかしこれは「最初だから、ちょっとでもとっかかりのありそうな科目にしよう」というチキンな動機からでした。もちろん他の学生であれば全く違うチョイスとなるはずです。しかしeスクール(人間科学部)ではきわめて多様な領域の科目が開講されているため、誰もが一度は自分趣味の履修登録ラインアップを作成できると思われます。しかるべき手続きから履修登録を済ませ、学費を納めたのち、開講日を迎えました。
 

同時進行10科目の衝撃 

 
さて、eスクールでは「月曜日午前0時(現在のレギュレーションでは「月曜日午前5時」)」に週が切り替わり、以後1週間の期間であればどの時間帯でも受講可能であることを前回お伝えしました。これをもう少し「時間数」を軸に説明しますと、「7日間=168時間受講可能」ということです。
 
私たちは1週間で168時間を生きている。
 
もっともらしく当たり前のことを書いてみましたが、なかなかのボリューム感です。168時間も暇を与えられたら、きっと持てあましちゃいますよね。
 
問題はこの168時間で、自由に使える時間がいかほどあるかということです。
 
まず1日7時間は寝たいので寝るとします。ご飯やらお風呂やら歯磨きやらトイレやら顔面パックやら脱毛ないしは育毛といった身支度作業で1日2時間は取られるとすると、週で63時間はタスクが決まっている時間です。大雑把に残り100時間とすると、ここにお仕事、専業主婦さんならば主婦業がいつもと同じ重量感で入ってきます。お仕事であれば週40時間ですが、現実的には通勤やら残業やらで60時間は労働に費やすのが今の日本では標準的です(待てや、これ以上だよ!甘ったれんな!という方もいらっしゃると思いますが、問題が変わってきてしまうのでここでは考えないことにします。ごめんなさい)。残りは40時間。
 
40時間?
 
察しの良い方なら最初からこのオチはみえていたと思いますが、10科目はこのたった40時間の中でやりくりすることになります。大学側の想定では、受講に90分、予習復習に少なく見積もって合計2時間以上としていますので、1科目あたり4時間は欲しいところです。いやもうこれ無理では。立錐の余地なし。たいっへんですやん!
 
と気づいたのも後の祭り、受講可能時間カウントダウンは月曜日から同時に始まってしまいました。ポイントカードの有効期限のように「前回受講時から1週間以内」というレギュレーションならまだ太刀打ちできたのかもしれませんが、どの科目も例外なく月曜0時スタートとなります。もちろん。どれかを受講している間にも他の科目のカウントダウンは止まらないのです。たいっへんですやん。
 
ここで磯子先生の金言をさっそく思い返すと、これが6科目ならまだ余裕が見えてきます。1週間の中で1日1科目受講すればよいからです。またしても当たり前すぎることを言うと、1週間は7日なんですよ。たいっへんですやん・・・
 
空は穏やかに晴れていました。一年で一番過ごしやすいはずの時期に、とんでもない奈落が口を開けています。このままではまずい。図らずも大学に大量に寄付してしまう。ということでまずは(自由裁量の)40時間を増やす方向を検討しました。幸いにも筆者は広い意味で自由業に近い専門職のため、実際の受講可能時間は40時間より多めに割くことができました。それでも受講に必要な最低時間数は間違いなく確保しなければいけないということで、余裕があった訳ではありません。
 
しばし思案した結果、ひとつの結論にたどり着きます。時間割です。
 

 バーチャル時間割作戦 

 
あれれ〜通信なのに時間割に縛られるの〜?という厳しい指摘が聞こえてきましたが、当時の筆者に反論する余裕はありません。しょうがないじゃないか、もはやお縄にかかるしか生き残る道はないんだよ!
 
時間割の制作で目指したのは、疑似的に「1週間周期での受講」なる状況を作ることでした。つまり月曜日に受講した科目はずっと月曜日、木曜日なら木曜日に受講し続けるという意味です。当たり前の話ですが、これは例えば月曜日の科目の受講が順延に次ぐ順延で木曜などにズレこむ…という運用をさせないことに意味があります。
 
逆にそうした不規則を許すとそれぞれの科目の受講周期=カウントダウンを止める周期、がガタついてしまい、どこかの週で受講周期が大きく伸びてしまう=受講期限に間に合わない科目、が出かねないのです。
 
とはいっても人間生きていればイレギュラーな予定も入るものです。そこで筆者は時間割へのもう一つの工夫として、プロ野球でお馴染みの「予備日」を設定しました。導入した時間割は次の通りでした。
 
月曜 入門統計 外国語(英語)II 体育I
火曜 憲法論 メディア論
水曜 建築と人間 環境と行動 環境とデザイン
木曜 里山論 緩和医療
金曜 予備日
土曜 予備日
日曜 予備日
 
週の初めは絶対に落とせない必修科目としつつ、残りの科目はなんとなく似たもの同士をくっつけて3日に散らしました。予備日を多めにとったのは万全を期したともいえますが、仕事柄半日ないしは全日使えない日が突発的に生じるため、使えない曜日をまるごと後ろに移すことを想定してのことでした。
 
例えば月曜が全く使えない場合、入門統計や外国語は火曜ではなく金曜に受講する、という流れです。予備日が週の3日というのはいかにも優雅ですが、土日は次の週の予習やBBSでの議論のチェックにも充てなければならないため、実際は一日の猶予もありません。言うなれば受講のチャンスは週にただ一度。
 
うん、もうこれはインターネットを使っているだけの通学です。というか、ツタヤでも7泊8日で10本同時に借りたら、そりゃ視聴チャンスは一度でしょうよ。
 
まさにがんじがらめのスケジュールでしたが、結果としてこの方式は成功を収めました。不慣れな1年目前期において、成績は最上級・・・ばかりではなかったものの、休んだ(=期間内に受講できなかった)講義は一つもなかったと思います。筆者の歴史上でも最も優秀(そう)だったのもこの時期だったと思われます。その内実は地頭の良さやら天賦のセンスなどでは断じてなく、時間割を守るというきわめて地味なものでした。今回は過積載受講の遂行が目的でしたが、案外受験勉強などにおいても達成可能な時間割を作って愚直に守ることは大きな分かれ目なのかもしれません。
 

追い込み型Aさんの場合

 

競馬のレース展開には「逃げ型」「先行型」「差し型」「追い込み型」の4パターンがあるとされています。1週間分の受講を終わらせることをゴールとすると、筆者の予備日多めの時間割作戦は「逃げ型」ないしは「先行型」といえます。しかし前回紹介したSkypeブレイカーAさんは主な自由時間が土日しか取れない制約もあって、追い込み型といえるような侠気溢れるレース展開を選択していました。
 
ここで、前期に7科目を履修したAさんの受講スケジュールを覗いてみましょう。
 
(受講開始)
月曜 仕事ダルい
火曜 仕事ダルい
水曜 仕事ダルい
木曜 仕事ダルいけどそろそろやるか 必修科目ポチッとな
金曜 仕事終わったけど・・・やべえぞこれ 科目2受講
土曜 科目3 科目4受講
日曜 科目5 科目6 科目7受講!! やったぜ!
 
月曜 助かったから今日は受講休み! 仕事ダルいな!
火曜 まだ土日の疲れが残ってるな 仕事ダルい
水曜 いやー仕事ダルい、辞めようかな
木曜 マジで上司ムカつくんだよね 受講?そんなん知るか
金曜 あれ、もう金曜? と、とりあえず必修科目受講しとこ・・・
土曜 科目2 科目3受講
日曜 科目4 科目5 科目6 科目7受講・・・
 
月曜 マジ死んだ・・・
(以下略)
 
ご覧の通り、Aさんは驚くべき末脚をもって最初の週の受講を終えることができました。問題はそのあとです。驚異的な追い上げでアドレナリンを放出したAさんの脳は安堵感と疲労感で満たされてしまい、月曜から水曜までスキマ時間を使う活力を得ることができませんでした。
 
なんであのときやっておかなかったんだろう。しかしもうその時間は戻ってこないのです。そして会社でのソリが合わないのはAさん個人の問題であってどうでもよいのですが、嬉しいはずの金曜日は決戦の金曜日、土日に至っては毎週が8月31日のごとき修羅場となっているのが笑えないところです。これが15週連続でやってきます。
 
繰り返しになりますが、168時間というカウントダウンは何人(なんぴと)にも止めることができないのです。それと言うまでもないことですが、同時受講を試みようとしても閲覧履歴(参照時刻)が残るため、実態は当局に筒抜けになります。そもそもただでさえちゃんと聞かなきゃわからないような内容を同時に聞いても、目が回るだけです。なにより「1週間の猶予」が与えられているeスクール生が受講をちょろまかしたとあっては、心証がいいはずがありません。
 
週の残り時間を、受講しなければならない科目の残り時間が上回ったとき、学生はみなこう思うのです。
 
今から学校に隕石落とせないかな。
 
次回は受講ペースにも慣れてきた頃の本当の壁、試験について書いてみます。